5月もいよいよ終盤、初夏の風が各地に届き始めるこの季節。
世界を見渡せば、気候や風土、信仰の違いが色濃くにじむ伝統的な祭典が各地で行われています。
今週も、宗教や文化が異なる3つの国から、その土地ならではの色彩豊かな行事を選びました。
静かに心を整える儀式もあれば、大地を揺るがすような賑やかな祭りも。
さあ、世界の「祈り」と「祝福」をめぐる旅へ、ご一緒しましょう。
1.オコンガテのコイヨリッティ(雪の星祭)
•開催日: 2025年5月30日(金)〜6月2日(月)ごろ
•開催地: ペルー・クスコ州オコンガテ(シナカラ聖地)
•祭典の歴史と特色:
ペルー南部クスコ郊外のアンデス高地では、毎年5月末から6月初めにかけて4日間にわたり「コイヨリッティ」という大規模な巡礼祭が行われます 。ケチュア語で「雪の星」を意味するこの祭典は、18世紀から続く伝統行事で、カトリック信仰と先住民のアンデス信仰が融合した独特のものです 。巡礼者たちは霊峰アウサンガテ山麓の聖地シナカラで氷河に供物を捧げ、五穀豊穣や家畜の健康を山の精霊(アプ)に祈願します 。鮮やかな民族衣装に身を包んだ各地の先住民グループが木製の十字架を担ぎ、太鼓や笛の音に合わせて踊りながら標高4600mを超える険しい巡礼路を進む光景は、荘厳でダイナミックです。2011年にユネスコ無形文化遺産にも登録され、毎年約10万人もの巡礼者がこの祭りに参加するとされます 。
•参考リンク: ペルー文化省公式サイト(ユネスコ無形文化遺産紹介ページ)  
2.エルサレムのシャブオット(七週祭)
•開催日: 2025年6月1日(日)〜2日(月)
•開催地: イスラエル・エルサレム市
•祭典の歴史と特色: イスラエルで「シャブオット(七週祭)」と呼ばれるユダヤ教の祝祭がちょうどこの週末にあたります。2025年は6月1日の日没から2日(月)にかけて祝われ、旧約聖書でイスラエルの民がシナイ山で神から律法(トーラー)を授かったことを記念する祭日です 。もともとは小麦の収穫期を祝う初穂祭に由来し、過越祭から数えて7週目(50日目)に行われるため「七週の祭り」とも呼ばれ、新約聖書に登場する五旬節(ペンテコステ)の起源にもなっています 。現代のイスラエルでは全国的な祝日となり、前夜からユダヤ教徒は徹夜で聖典の学びに励み、乳製品を使った料理(チーズケーキやブリンツ)を味わう習慣があります。エルサレムでは明け方に嘆きの壁(西壁)に大勢が集まり祈りを捧げる光景が見られるなど、静粛ながらも豊かな伝統を感じられる行事です。
•参考リンク: 在イスラエル日本国大使館(イスラエルの祭日紹介)  
3.アムリトサルのグル・アルジュン・デブ殉教日
•開催日: 2025年5月30日(金)
•開催地: インド・パンジャーブ州アムリトサル市
•祭典の歴史と特色: インド北部パンジャーブ地方のシク教徒社会では、毎年5月末に第5代グル(教祖)アルジュン・デブの殉教日が静かにしのばれます。第5代グル・アルジュンは1606年、ムガル帝国の圧政下でシク教の聖典改ざんを拒み、拷問の末に処刑されたためシク教初の殉教者となりました 。その烈日の苦難を偲んで、命日には冷たい甘い飲み物「チャビール」を行き交う人々に振る舞う習慣があります 。炎暑の中、巡礼者や地域の人々に砂糖水やローズシロップ入りの冷たい飲料を無料提供するこの奉仕は、グルの慈愛と精神を現代に伝える象徴的な儀式です。アムリトサルの黄金寺院(ハルマンディル・サヒブ)をはじめ各地のグルドワラ(礼拝所)ではキールタン(聖歌)の奉納や経典の朗読が行われ、信徒たちは厳粛な雰囲気の中で先達の犠牲に思いを馳せます。
•参考リンク: シク教団体 Basics of Sikhi(チャビール・デー解説)  
どの祭典も、その土地の人々が大切に守り続けてきた信仰と文化の結晶です。
高地の雪山で祈りを捧げる人々、夜明けに静かに聖書を読み上げる群衆、そして街角で冷たい水を分け合う優しさ。
それぞれの風景には、時代を越えて受け継がれる「思い」が込められていました。
来週もまた、世界のどこかで灯る祈りの灯火を一緒に追いかけてみましょう。
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