夏の足音が近づく7月上旬、日本各地では歴史ある神社の祭礼が催されます。
ここでは東日本(東京)、中部地方(新潟県)、西日本(福岡県)から一つずつ、特色ある神社祭典を紹介します。
いずれも地域に根付く伝統行事であり、歴史や伝承、見どころが豊富です。
1、東日本(東京):鳥越神社 水上祭(7月1日)
東京都台東区の鳥越神社では、毎年7月1日に水上祭(すいじょうさい)が執り行われます。
この祭りは鳥越神社例大祭(6月上旬)の締めくくりで、境内に形代(かたしろ=紙の人形)を奉納した御座船(ござぶね)をはじめ、数十隻の舟で隅田川を下る儀式です。
舟上では祭楽が奏でられ、罪穢(つみけがれ)を払って無病息災・長寿を祈願します。
すなわち、形代に自らの罪・穢れを託して水底に沈めることで心身を清め、健康と長寿を願う古来の習わしが受け継がれています。
鳥越神社の主祭神は日本武尊(やまとたけるのみこと)で、武勇に秀でた英雄神として知られます。
この神は東征の逸話を持ち、武運長久や地域防護の神徳が感じられる存在です。
水上祭ではこの日本武尊をはじめ八幡神や天照大神などが祀られ(合祀に天児屋根命、徳川家康公などもある)、江戸時代から続く下町情緒豊かな祭礼として地元で親しまれています。
【神社名】鳥越神社(東京都台東区鳥越)
【祭典名】水上祭(すいじょうさい)
【祭典日】2025年7月1日(火) 10:00~14:00 
【御神徳】日本武尊を祀り、武勇・必勝・安全守護などのご利益があるとされる。水上祭では無病息災・厄除けを祈願する。
【所在地】東京都台東区柳橋~隅田川(鳥越神社) 
【歴史・特色】祭りは「形代流し」の神事で、神事を行う御座船に形代を積み込み、五色の幣帛を立てた船団が隅田川を下ります 。祭楽が響く中、形代に託した罪穢を根の国(海底)に清め、海神に奉献して無病息災・長寿を祈念する伝統が続きます。江戸時代から続く祭礼で、祇園祭に倣い疫病退散を願った故事とも結びつく意義深い行事です。
2、中部地方(新潟・村上市):村上大祭(7月6日・7日)
新潟県村上市の西奈弥羽黒(せなみはぐろ)神社では、毎年7月6日(宵祭)・7日(本祭)に村上大祭(むらかみたいさい)が催されます。
源頼義・義家ゆかりの古社で、祭神は土地開拓の神と伝えられる奈都比売命(なつめのみこと)・倉稲魂命・月読命です。
これらの神々は稲作や地場産業の守護、豊穣・発展、そして生命の根源を司るとされ、村上地方の繁栄を祈願してきました。
村上大祭は1633年(寛永10年)、村上藩主の堀直寄が羽黒山頂から現在地に社殿を遷し遷宮祭を行ったのが始まりです。
当初6月7日に行われていた例大祭は旧暦の7月7日に行われるようになり、この遷宮祭が発展して「村上大祭」となりました。
祭りの見どころは19基もの豪華な屋台(おしゃぎり)と3基の神輿、そして14騎の「荒馬(あらうま)」行列です。
屋台は彫刻や漆塗りが見事で、幕末から大正初期にかけて作られたものも含まれ、200年以上の歴史があります。
全てが手作りで塗り替えや修理を重ねており、その豪華さと伝統技術は新潟県の宝とされています。実際、近年「村上祭の屋台行事」として国の重要無形民俗文化財に指定されました。
【神社名】西奈弥羽黒神社(新潟県村上市羽黒町)
【祭典名】村上大祭(むらかみたいさい)
【祭典日】2025年7月6日(土)宵祭、7日(日)本祭 
【御神徳】土地開拓と豊穣を司る奈津比売命を筆頭に、農耕・食物(倉稲魂命)や月の神(つきよみ命)を祀る。豊作・商売繁盛・家内安全など地域振興の守護とされる。
【所在地】新潟県村上市羽黒町(村上市郷土資料館隣)
【歴史・特色】祭礼は戦国期までさかのぼるとされ、城下町の鎮守として重視されてきました。19台の豪華絢爛な屋台と3基の神輿が勇壮に城下を練り歩き、山車と馬上の行列が賑わいを作ります。屋台彫刻には龍や美人画など見事な装飾が施され、地元大工・宮大工の技が今に伝わります。夜は提灯に灯された屋台が川面に映え、幻想的な風景となります。江戸時代から続く伝統行事で、鯛車で有名な村上の夏祭りを象徴するものです。
3、西日本(福岡・博多):櫛田神社 博多祇園山笠(7月1日~15日)
博多を代表する夏祭り、博多祇園山笠は福岡市博多区の総鎮守・櫛田神社の祭礼として行われます。
祭神は大幡主大神(大国主命)、天照皇大神、須佐之男命で、櫛田神社は「お櫛田さん」として古くから博多の人々に親しまれています。
特に須佐之男命は疫病退散の神として崇敬が厚く、年初には大幡主神(縁結び・殖産興業)や天照大神(五穀豊穣)のご利益を祈念します。
博多祇園山笠は毎年7月1日から15日にかけて開催され、クライマックスの「追い山」は15日早朝に行われます。
約770年以上の歴史を誇り、1241年の創始以来「町中を清め疫病を祓う祇園祭」として発展してきました。
最大の見せ場は櫛田神社前での追い山で、7つの流(町衆)が重さ約1トンにも及ぶ「舁き山笠」をかついで全力疾走し、櫛田神社境内の石段を駆け上がります。
また博多駅前や櫛田神社周辺には高さ10mを超える豪華な「飾り山笠」10基が飾られ、全国から訪れる観光客を魅了します。
【神社名】櫛田神社(福岡市博多区上川端町)
【祭典名】博多祇園山笠(はかたぎおんやまかさ)
【祭典日】2025年7月1日(火)~15日(火) (15日早朝に追い山)
【御神徳】大国主命を祖とする大幡主大神は縁結び・商売繁盛、素戔嗚命は疫病退散の神として信仰される 。山笠では無病息災・大漁満足・町内安全を祈願する。
【所在地】福岡県福岡市博多区上川端町(櫛田神社)
【歴史・特色】もともと鎌倉時代に祇園感神院(現・櫛田神社)で始まり、室町期には博多祇園会と呼ばれるようになりました。豪快な舁き山笠(かきやま)と美麗な飾り山笠(かざりやま)があり、前者は町衆による速さ競争、後者は江戸情緒あふれる絵画的な山車です。毎年「山笠見物男(おとこ)」の掛け声が響く中、勇壮華麗な山笠行事を通じて博多の夏を祝います。
以上の祭典はいずれも、神社の御神徳をたたえ、古来からの伝承や工芸技術を伝える行事です。
参拝者は神事の荘厳さと祭りの賑わいを同時に味わえるでしょう。これらの伝統行事を通じて、地域の文化と歴史を感じる夏のひとときをぜひお楽しみください。
参考資料: 鳥越神社公式・町会資料、村上市観光協会・新潟県観光サイト、櫛田神社・山笠振興会など。
コメント