文化や宗教に根ざした世界の祭典は、その土地ならではの雰囲気と歴史を伝えてくれます。今週(2025年5月19日〜25日)は日本以外でもユニークな伝統行事が各地で行われます。ここでは、宗教や地域の異なる3つの祭典をご紹介します。それぞれ静謐な儀式から賑やかな祝祭まで、多彩な魅力にあふれています。
1、ネスティナルストヴォ(火渡りの祭典)
•祭典日:毎年5月21日(祭典は5月21日から23日にかけて開催) 
•開催地:ブルガリア(ストランジャ山地のブゥルガリ村ほか)
•歴史と特色:ネスティナルストヴォは、東方正教の聖コンスタンティンと聖ヘレナの日(5月21日)に行われる伝統的な火渡りの祭典です 。元々は古代トラキアのディオニュソス信仰に遡るとされ、キリスト教伝来後に聖人信仰と結び付けられました 。祭りは太鼓やリラ(竪琴)の音に合わせた熱狂的な踊りで最高潮に達し、聖人コンスタンティンとヘレナのイコン(聖画像)を手に持った踊り手たちが赤熱した炭火の上を裸足で渡ります  。踊り手(「ネスティナリ」と呼ばれる人々)は恍惚状態(トランス)に入り、不思議と火傷することなく舞い続ける様子は神秘的です 。この風習は千年以上受け継がれており、2009年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されました 。現在でもブルガリア南東部の限られた6つの村(ブゥルガリ村、コスティ村など)で本来の形の儀式が守られており、夜の山村は厳かな空気と熱気に包まれます。
•参考リンク:ブルガリア文化省(ユネスコ無形文化遺産) 
2、バーブの宣言記念日(バハイ教)
•祭典日:2025年5月23日(※5月22日の日没後2時間11分から開始) 
•開催地:イスラエル・ハイファ(バハイ教世界センター)など世界各地
•歴史と特色:
1844年5月23日、現在のイラン・シーラーズで若き預言者「バーブ」(門という意味の称号)が自らが神の使者であることを宣言しました  。これはバハイ教の起源となる重要な出来事で、バーブは後に現れる教祖バハオラの先駆者と位置付けられています 。バハイ教徒にとって「バーブの宣言」は九大聖日に数えられる神聖な記念日であり、この日は仕事や学校も休みになります 。毎年この日になると、世界中のバハイ教徒たちは集会を開き、祈りの朗読や当時の逸話の紹介、静かな黙想を通じてバーブの崇高なメッセージに思いを馳せます 。中東の紛争や迫害を乗り越えて世界200か国以上に広がったバハイ教の平和と一致の精神が感じられる、静粛で敬虔な祭典です。
•参考リンク:バハイ教公式サイト  
3、ブン・バンファイ(ロケット祭り)
•祭典日:毎年5月(地域ごとに異なり、5月中旬〜下旬に開催) 
•開催地:ラオス(ヴィエンチャン郊外ナータン村ほか各地)
•歴史と特色:ブン・バンファイは、雨期を目前に控えたラオスで行われる勇壮なお祭りで、その名の通り手作りロケットを空高く打ち上げて雨乞いをする伝統行事です 。元々は農耕に必要な雨をもたらす天空の神(パヤータェン)に感謝し、豊穣を祈る祭りで、ロケットはユーモラスに男性のシンボルを模して作られます 。祭りの日には村ごとに趣向を凝らしたイベントが盛り沢山です。男性が女装して踊る仮装行列や、竹や紙で作られた巨大な象や馬の山車のパレードが村中を練り歩き、朝から伝統音楽と笑い声が響きます 。クライマックスは野原でのロケット打ち上げ競技で、各村のチームが工夫を凝らした火薬ロケットを次々と発射します 。どのロケットが一番高く上がるかを競い合い、優勝した村には歓声が上がります 。打ち上げの合間には屋台で伝統料理が振る舞われ、訪れた人々は陽気な雰囲気の中で交流を楽しみます 。火薬の轟音とともに夜空に描かれる煙の軌跡は迫力満点で、五穀豊穣を願う人々の熱気と笑顔にあふれた、ラオスらしい賑やかな祭典です。
•参考リンク:ラオス政府観光局(イベント紹介) 
今週紹介した3つの祭典は、それぞれ異なる信仰と文化に根ざしながらも、人々の「祈り」や「つながり」を大切にする想いに満ちていました。
火の上を歩くブルガリアの祈り、静かに瞑想を捧げるバハイ教徒、そして空へ願いを放つラオスの笑顔。
形式は違えど、どの祭典にも「心をひとつにする時間」がありました。
来週もまた、世界のどこかで灯る伝統の火を一緒に訪ねてみましょう。
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