梅雨空の下、夏本番を迎える直前の6月下旬は、日本各地で特色ある神社のお祭りが催されます。古くから伝わる由緒ある祭典には、その土地ならではの歴史や風習が息づき、訪れる人々を魅了してやみません。今回は、6月23日から29日の期間に開催される東日本・中部・西日本それぞれの地域を代表する3つの伝統的な神社祭典をご紹介します。初夏の風物詩となっているお祭りの魅力を通じて、日本の夏の始まりを感じてみませんか。
1、東日本:浅草富士浅間神社「お富士さんの植木市」(東京都台東区)
江戸の昔から約400年続く浅草の初夏の風物詩が、浅草富士浅間神社の「お富士さんの植木市」です。2025年は6月28日(土)・29日(日)に開催され、浅草寺裏手の観音うらエリア一帯が色とりどりの植木や盆栽で埋め尽くされます。境内周辺には庭木や鉢花を販売する露店がずらりと並び、下町情緒あふれる賑やかな雰囲気に包まれます。梅雨時は植木の植え替えに最適とされ、「お富士さんの植木市」で求めた苗木はよく根付くとも言われています。家族連れでぶらりと散策しながら、美しい緑や花々を眺め、射的や金魚すくいなど昔ながらの露店遊びを楽しめるのも魅力です。
浅草富士浅間神社は木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)を御祭神とし、境内には富士山をご神体とする神社らしく「富士塚」と呼ばれるミニ富士山があります。山開きの日には一般にも開放され、登拝することができます。火難避けや安産、子授け、家内安全といった御神徳で信仰を集める神様で、植木市の期間中も多くの参拝客で賑わいます。色鮮やかな植木とともに浅間神社境内を彩る奉納提灯の明かりは夕闇に浮かび上がり、夏の訪れを感じさせる幻想的な光景です。下町浅草ならではの粋な雰囲気を味わいながら、初夏のひとときを爽やかに過ごせるでしょう。
2、中部地方:清水津島神社「清水のチョウチン祭り」(愛知県設楽町)
愛知県奥三河の山里・設楽町清水地区に鎮座する清水津島神社では、毎年6月30日の夜に「清水のチョウチン祭り」が行われます。須佐之男命(すさのおのみこと)を祭神とする津島神社の例祭で、本社である尾張津島神社の天王祭を模したものとして江戸時代に始まったと伝えられます。氏子たちが奉納した赤や緑のホオズキ型提灯約150張を竹笹に吊るした山車に灯をともし 、笛太鼓のお囃子に乗せて氏子地域を練り歩いた後、神社に奉納します。闇夜にぽうっと浮かぶ提灯の灯りは幻想的で、山里の夏の夜を彩る光の祭典です。その美しさは「無形民俗文化財」としても貴重であり、地元の人々にとって一年の繁盛を願う大切な行事となっています。
清水のチョウチン祭り最大の見どころは、奉納が終わった後に行われる「チョウチン取り」です。見物に訪れた人々が健康を祈って山車から提灯を奪い合い、自宅の戸口に吊す風習で、そうすることで夏バテや疫病をせず無病息災で過ごせると伝えられています。提灯をめぐる熱気あふれる争奪戦は一瞬で、手にした提灯のほのかな灯りはお守り代わりです。疫病除けの神である須佐之男命の御神徳にあやかり、夏の健康を願う地域ならではの風習と言えるでしょう。近年では山車の巡行や露店は規模を縮小していますが、ほのかな提灯の灯火に託す地元民の信仰と願いは今も息づいています。山あいの小さな祭りながら、その素朴で力強い伝統行事は見る人の心に深く刻まれることでしょう。
3、西日本:久保八坂神社「尾道祇園祭・三体廻し」(広島県尾道市)
古くから港町として栄えた広島県尾道市では、豪快な神輿祭り「尾道祇園祭」が開催されます。市内久保町の八坂神社の例祭で、尾道三大夏祭りの一つにも数えられる伝統行事です。2025年は6月27日(金)の宵宮祭、28日(土)の本祭に渡って執り行われ、特に28日夜に行われるクライマックスの神事「三体廻し」には毎年大勢の観客が詰めかけます。八坂神社の御祭神・素戔嗚尊(すさのおのみこと)は疫病退散の神様として知られ、祇園祭は元来、夏の疫病除けを祈願して始まったとされます。尾道の祇園祭も江戸時代から続く歴史を持ち、地域の人々に受け継がれてきました。
三体廻しでは、尾道市内の3つの地区からそれぞれ担ぎ出された3基の神輿が一堂に会し、「ヨイヤサー!」という威勢の良い掛け声とともに大幟を中心に高速で駆け回ります。まずそれぞれの神輿が幟の周囲を回るタイムトライアル競走が行われ、続いて三体の神輿が入り乱れて激しくぶつかり合うように巡行し、最後は勝負のついた神輿を加えて3基同時に幟の周りを廻ります。荒々しくも見事な神輿さばきに会場は熱気と歓声に包まれ、勇壮な光景はまさに圧巻です。担ぎ手たちの息の合った動きと魂のこもった掛け声に、見守る観客も手に汗握り、最高潮の盛り上がりを体感できます。こうした勇ましい祭りを通じ、地域の結束もいっそう強まると言われ、「三体廻しのとき尾道がひとつになる」という地元の言葉にも表れています。
祭りの舞台となる土堂渡場(渡し場)周辺は海に面しており、夜には提灯や照明に照らされた神輿と瀬戸内の水面が織りなす光景が風情を添えます。八坂神社へ神輿が戻っていく頃には、祭りに参加した人々は達成感とともに夏の訪れを実感することでしょう。勇壮華麗な尾道祇園祭は、見る者に元気と感動を与えてくれる西日本を代表する夏祭りです。
おわりに
梅雨明け前のこの時期、日本各地で行われる神社の伝統祭典には、それぞれの土地に根付いた祈りと工夫が詰まっています。東日本の下町・浅草では色彩豊かな植木市が人々の目を楽しませ、中部の奥三河では素朴な提灯の灯りに健康への願いが託され、西日本の港町・尾道では勇壮な神輿の競演が街を一つにまとめます。それぞれのお祭りからは、長い歴史の中で培われた地域の絆と、神様への深い信仰心が感じられることでしょう。
機会があればぜひ実際に足を運び、五感で祭りの雰囲気を味わってみてください。伝統行事の持つパワーと魅力に触れることで、日本の夏の新たな一面を発見できるに違いありません。今年の夏も、皆さんにとって実り多い季節となりますように──。祭りの熱気とともに、健やかな半年のスタートを切りましょう。
参考リンク:
•浅草富士浅間神社「お富士さんの植木市」(浅草観光連盟公式サイト)  
•設楽町清水「清水のチョウチン祭り」(奥三河観光ナビ)  
•尾道市「尾道祇園祭・三体廻し」(尾道観光協会公式サイト)  
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