今週(2025年6月23日〜29日)、日本以外の世界各地ではユニークな伝統宗教行事・祭典が開催されます。それぞれ異なる宗教的背景と地域を持ち、静謐な儀式から賑やかな祝祭までバラエティ豊かな3つの祭典をご紹介します。文化や旅好きの皆さんも思わず現地に行ってみたくなるような、今週ならではの祭りの魅力をお伝えします。
1、インティ・ライミ(Inti Raymi)– 太陽の祭り(ペルー)
祭典日: 6月24日(2025年)
開催地: クスコ(ペルー)
南米ペルーの古都クスコでは、毎年6月24日にインカ帝国の太陽神祭「インティ・ライミ」が盛大に行われます。インティ・ライミはケチュア語で「太陽の祭り」という意味で、南半球の冬至にあたるこの日、太陽神イントゥイ(インティ)に感謝し新年を迎える伝統行事です。15世紀にインカ皇帝パチャクティが始めたとされ、当時は9日間にわたり動物供犠や舞踊を奉納する壮麗な儀式でした。16世紀のスペイン統治で一度は禁止されましたが、1944年に地元有志によって復活して以来、毎年欠かさず開催されています。
現在のインティ・ライミはクスコ最大のイベントであり、世界中から数万人もの観光客が訪れる南米有数の祭典です。祭り当日にはインカ帝国の王や女王、司祭になりきった数百人の出演者たちが色鮮やかな民族衣装に身を包み、町中で太鼓やケーナの音色に合わせて伝統舞踊を披露します。儀式はかつての太陽神殿跡コリカンチャから始まり、アルマス広場を経て郊外の古代要塞サクサイワマンへと移動する大掛かりな再現劇となっています。サクサイワマン遺跡ではリャマ(ラクダ科の動物)の生贄(現在は象徴的な模型で代用)や聖火の儀、チチャ酒の捧げものなど、インカさながらの神事が厳かに演じられ、太陽の恵みに感謝を捧げます 。夕暮れ時には空高く太陽神を称える叫びが響き渡り、観客も一体となって盛り上がります。その光景はまるでタイムスリップしたかのようで、インカの栄華とアンデスの文化的誇りを肌で感じられるでしょう。
参考リンク: クスコ観光公式 – インティ・ライミ紹介 
2、ラタ・ヤトラ(Ratha Yatra)– ジャガンナート寺院の大神輿(インド)
祭典日: 6月27日(2025年)
開催地: プリー(インド・オリッサ州)
インド東部オリッサ州の聖地プリーでは、ヒンドゥー教の有名な大祭「ラタ・ヤトラ(ラトヤトラ)」が6月27日に執り行われます。これはヒンドゥー教ヴィシュヌ神の化身であるジャガンナート(「世界の主」の意)と、その兄バララーム、妹スバドラの三神を祀る**巨大な山車(チャリオット)**の巡行祭です。毎年、アーシャーダ月(雨季の時期)の明るい半月に行われるこの祭典は、10世紀ごろの東ガンガ朝の時代にさかのぼる古い起源を持つとされ、現在まで連綿と受け継がれてきました。
プリーのラタ・ヤトラ当日、ジャガンナート寺院の前には高さ13メートルを超える色鮮やかな**3基の御神輿(山車)が並び立ちます。それぞれにジャガンナート、バララーム、スバドラの神像が安置され、正午頃、寺院から神々が山車に移されるといよいよ巡行の開始です。数万人の巡礼者や信者が詰めかける中、「ジャガンナート万歳!」**と唱和する大歓声とともに、太い綱を掴んだ群衆が山車を力いっぱい引き始めます。山車は寺院前の大通り「バダダンダ」をゆっくり進み、約3キロ離れたグンディチャ寺院まで運ばれます。道中ではヒンドゥーの聖歌が歌われ、太鼓やシンバルのリズムが響き渡り、熱気と敬虔さで街全体が満たされます。神々はグンディチャ寺院で一週間過ごした後、再び山車に乗せられて本殿へ戻る「バフダ・ヤトラ」(帰路の祭)も行われ、祭典はクライマックスを迎えます。
ラタ・ヤトラは「現世に神様が現れ、誰もがその御姿を拝める日」とされ、カーストや信仰の別なく全員が神輿を引くことを許される特別な機会でもあります。そのため、プリーの本祭には毎年100万人近い人々が集まるともいわれ、群衆が巨大な山車を引く様子から、英語の「ジャガーナウト(止められない圧倒的な力)」という言葉の語源になったとも伝えられます。雄大な木製の山車がゆったり進むさまは迫力満点で、インド亜大陸の信仰心と活気を象徴する光景です。一方で、人々は神への深い敬意を胸に静かに祈りを捧げながら綱を引いており、その様子には信仰の静謐さも感じられます。熱狂的でありながら敬虔さを失わないラタ・ヤトラは、静と動が調和した独特の祭典と言えるでしょう。
参考リンク: オリッサ州政府観光局 – ラタ・ヤトラ案内  
3、インナルヤ(L-Imnarja)– 聖ペトロとパウロの祝祭(マルタ)
祭典日: 6月29日(2025年)
開催地: ブスケット庭園(マルタ・シギジョイ近郊)
地中海の島国マルタでは、6月29日にカトリックの祝日「聖ペトロとパウロの祝日」を祝う伝統祭**インナルヤ(L-Imnarja)が開催されます。マルタ語で「インナルヤ」と呼ばれるこの祭典は、古代ローマ時代から続くとされるマルタ最古級の祝祭で、その名称はイタリア語の Luminaria(ルミナリア、イルミネーションの意)に由来します。もともとは夜に焚かれる篝火(かがり火)**にちなみ名付けられたもので、文字通り光の祭りでもあります。島の守護聖人である聖ペトロと聖パウロの殉教を記念する宗教的な意義に、古来の収穫感謝や豊穣祈願の風習が融合し、マルタならではのユニークで豊かな文化を育んできました。
インナルヤは、首都から離れた緑豊かなブスケット庭園で行われるのが特徴です。6月28日の夜には地元の家族連れや友人同士が木陰に集い、野外ピクニックを楽しみます。あちこちで伝統料理の**ウサギシチュー(フェンカータ)が煮込まれ、芳ばしい香りが漂います。闇夜には篝火が焚かれ、その火を囲んでマルタ伝統の即興詩歌「ガーナ (għana)」**が歌われたり、アコーディオンやタンバリンに合わせて人々がフォークダンスに興じたりと、穏やかながらも心温まる賑わいです。街中の派手な山車行列や爆竹とはひと味違い、自然の中でしっとりと語らい歌うこの光景は、マルタの人々の素朴な生活文化を感じさせてくれます。
翌29日の日中には、伝統的な農業祭(アグリカルチャル・フェア)が開かれます。ブスケット庭園の一角には農家が一年かけて育てた作物や家畜がずらりと並び、品評会が行われます。巨大なカボチャや立派なウシ、手工芸品などが所狭しと展示され、訪れた人々は島の農業の恵みに感嘆しながら見て回ります。さらに午後になると、近くの麦畑を利用した伝統の競馬・ロバレースが開催されます。騎手たちが色鮮やかな衣装をまとい、観客の声援を受けながら馬やロバを走らせる様子は牧歌的でほほえましく、島民にとって年に一度の大盛り上がりとなるイベントです。
インナルヤの背景には、島の農閑期にあたる初夏に「収穫を終えた農民が英気を養う休息日」という意味合いもあります。実際、この祭典は長い労働を終えた人々が家族や仲間と集い、郷土料理を味わい、歌や競争でリフレッシュする機会となってきました。夜には花火が打ち上げられる地域もあり、最後は聖ペトロとパウロへの感謝を込めた荘厳なミサで締めくくられます。こうして宗教的な敬意と農村の伝統が美しく融合したインナルヤは、マルタの文化的アイデンティティを象徴する祝祭として今も大切に守り続けられています。静かな祈りと素朴な楽しみが調和するこのお祭りは、観光客にもマルタの人々の温かさと歴史を身近に感じさせてくれるでしょう。
参考リンク: マルタ観光局 – 聖ペトロとパウロ祭(インナルヤ)案内  
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それぞれ個性的なこれら3つの祭典は、今週ならではの宗教的伝統と地域文化の魅力を映し出しています。静寂の中で祈りを捧げる儀式から、街を挙げての熱狂的なパレードまで、その土地に根ざした祝祭は人々の信仰と生活に彩りを与えてきました。機会があればぜひ現地を訪れ、五感でその雰囲気を味わってみてはいかがでしょうか。今年の夏至が過ぎたこの時期、世界各地で繰り広げられる伝統の祭りが、皆さんの旅心を刺激するヒントになれば幸いです。楽しみながら文化への理解を深める旅に出てみましょう!  
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