夏の盛りも過ぎ、8月後半の2025年8月18日から24日の週には、世界各地で特色ある伝統的な宗教行事が催されます。この週に開催される3つの祭典を取り上げ、それぞれの名称・日程・開催地とともに、その歴史的・宗教的意義や特色を詳しくご紹介します。異なる地域(アジア・アフリカ・ヨーロッパ)と宗教(ジャイナ教・キリスト教正教・カトリック)からバランスよく選んでみました。それでは早速見ていきましょう。
1. パーリュシャナ(ジャイナ教の祭典 / インド)
開催日: 2025年8月21日(木)~8月27日(水)
開催地: インド各地のジャイナ教寺院(特にグジャラート州アフマダーバードやマハーラーシュトラ州ムンバイなどジャイナ教徒の多い地域)
概要: パーリュシャナ(Paryushana)は、ジャイナ教徒にとって一年で最も重要とされる8日間(ディガンバラ派では10日間)の宗教行事です 。期間中は断食と内省、そして祈りに専念し、自らの魂を清めることに努めます。特に終盤には一年のあらゆる罪を悔い改め、全ての生き物に許しを請うというジャイナ教ならではの伝統があり、互いに「ミッチャミ・ドゥッカダム(ごめんなさいの意)」の挨拶を交わします 。この寛容と赦しの精神により、魂に付着した悪しきカルマが焼き尽くされると信じられています 。
歴史・宗教的意義: 「パーリュシャナ」という言葉には「すべてを燃やし尽くす」という意味があり、行事名が示す通り心身に積もった煩悩や業を焼き払い、徳を積む期間とされています 。古代インドで始まったこの祭典は、約2500年前のマハーヴィーラ尊師の教えにも遡るとも言われ、長い歴史の中でジャイナ教コミュニティに深く根付いてきました。期間中、信徒たちは普段離れて暮らす修行者(僧侶)を各地の寺院に迎えて教えを聞き 、日没後は飲食しない断食や菜食の厳守など戒律をいつも以上に厳格に守ります 。最終日(サンヴァツァリー)には大懺悔の儀式が執り行われ、1年間の過ちを懺悔して互いに許し合うことで、新たな気持ちで来る年を迎えるのです 。
特色: パーリュシャナの期間中に強調される徳目は、非暴力・謙虚・誠実・知足・真実・自己抑制・苦行・献身・無執着・純潔の10徳であり 、ジャイナ教徒はこれらの徳を日常生活で実践するよう努めます。また多くの信者は水だけで数日間過ごす断食に挑み、自制と献身を体現します 。期間明けには断食を終えた人々を家族や友人が心づくしの食事でもてなし、その努力を称え合う光景も見られます 。パーリュシャナは豪華な祭りというよりも静かで厳かな宗教行事ですが、**「赦し」と「浄化」**をテーマに据えたこの祭典は、現代においてもジャイナ教徒たちの精神的な結束を強める大切な機会となっています。
関連リンク: Paryushana – Wikipedia(英語)
2. ブヘ(エチオピア正教の変容祭 / エチオピア)
開催日: 2025年8月19日(火)
開催地: エチオピア各地(首都アディスアベバを含む全国の村や町の近隣地域)
概要: ブヘ(Buhe)は、エチオピアおよびエリトリアの正教会で毎年8月19日に祝われる伝統的宗教祭で、イエス・キリストの変容(山上でキリストの姿が神々しく変わった出来事)を記念する行事です 。この日はエチオピア暦ではネハサ月13日にあたり、「デブレ・タボル」と呼ばれるタボル山でのキリストの変容を祝うことから、現地では**「デブレタボル祭」とも呼ばれます 。ブヘは何世紀にもわたり受け継がれてきた宗教的かつ文化的に重要な祭日**であり、都市化が進む現代でも地域コミュニティの団結を象徴する行事として大切にされています 。
歴史・宗教的意義: キリスト教の正教会では毎年8月19日を主の変容祭日と定めています。エチオピア正教会もこれに従い、この日はタボル山上で弟子たちの前でキリストが神性を顕現した奇跡(変容)を讃える日となっています。歴史的にはエチオピアにキリスト教が伝わった4世紀頃から祝われてきたとされ、特に子どもや若者が主体となって盛り上げる独自の風習が育まれてきました 。社会が変化する中、一時は都市で廃れかけたこともありましたが、近年では伝統の復興が図られ、学校や教会が中心となって若い世代へ祭りの意義を伝える取り組みもなされています 。
特色: ブヘの当日、エチオピアの村々や町では朝から近所の子どもたち(主に少年たち)がグループになって各家庭の戸口を訪ね歩きます 。彼らは「ホヤホイェ(Hoya Hoye)」という掛け声の入った伝統的な歌をリーダーの歌い手に続いて合唱し 、リズムに合わせて手作りの編み紐のムチをピシッと鳴らして見せます 。家の人々は歌い終えた子どもたちに感謝の印として平焼きパン(ムルムル)や少額のお金を与え、子どもたちは家族の繁栄と健康を祈って祝福を送りつつ次の家へと回ります 。日が暮れる頃になると今度は大人も含めた近隣の人々が広場に集い、乾いた草や小枝を束ねた大きな松明(チボ)に火を灯す習わしがあります 。燃え盛るかがり火を囲んで人々は太鼓や音楽に合わせて踊り、伝統料理やお酒を振る舞いながら賑やかな夜祭を繰り広げます 。炎の明かりが闇夜を照らす様子は、イエスの聖なる光を象徴しているとも言われます。ブヘは宗教的敬虔さとコミュニティの絆が融合したエチオピアならではの祭典であり、この日ばかりは都会でも近所の人々が顔を合わせて歌と笑顔を交わす光景が見られます。
関連リンク: Buhe – エチオピア観光庁(Visit Ethiopia)公式サイト(英語)
3. シッチェスの聖バルトロメウ祭(カトリックの守護聖人祭 / スペイン)
開催日: 2025年8月23日(土)・24日(日)
開催地: スペイン・カタルーニャ州シッチェス(地中海沿いのリゾート町)
概要: シッチェスの聖バルトロメウ祭(Festa Major de Sant Bartomeu)は、同町の守護聖人である聖バルトロメウ(バルトロマイ)を祝う年に一度の最大のお祭りです。メイン行事日は聖人の祝日である8月24日ですが、その前日の23日から盛大なイベントが繰り広げられます 。17世紀に宗教的祝祭として始まったこの行事は、時を経て地域住民が誇る華やかな伝統文化の祭典へと発展しました 。花火あり山車ありパレードありのにぎやかなフィエスタで、毎年欧米からの観光客も多数訪れますが、地元の人々にとっては「町最大のお祭り」として代々受け継がれてきた誇り高い行事です 。
歴史・宗教的意義: この祭典はカトリック教会の聖バルトロマイ使徒(イエスの十二使徒の一人)の祝日に合わせて行われます。シッチェスではバルトロマイを町の守護聖人として崇敬しており、正式な起源は17世紀まで遡ります 。当初は教会の荘厳なミサや聖人像の行列が中心の厳かな祭礼でしたが、徐々に市民主体の世俗的な祝賀要素が加わり、現在のような宗教と民族芸能が融合したお祭りになりました 。それでも24日には今も教会で聖人に捧げるミサが行われ、聖人像を担いだ荘厳な巡行も執り行われます 。この巡行は厳粛でありつつも、お祭りならではの華やかな出し物に囲まれて進み、聖と俗の調和した光景を生み出しています。
特色: シッチェスの聖バルトロメウ祭最大の見どころは、23日夜に海岸で打ち上げられる伝統の花火(打ち上げ花火と仕掛け花火)です 。真夏の夜空と地中海をバックに繰り広げられる花火ショーは「息をのむ美しさ」と称され、町中から観客が集まります。また昼間のパレードでは等身大よりも巨大な人形(ジェガンツ)が町を練り歩き、悪魔役の一団(ディアブレズ)が松明や花火を手に跳ね回る伝統芸能「コレフォック(火の奔走)」が披露されます 。この悪魔たちの火祭りでは、火花を散らす悪魔衣装の若者たちが観客に向けて火花を振りまきながら踊り狂い、見る者を熱狂させます。さらにカタルーニャ名物の人間の塔(カステリェ)も組まれます 。屈強な土台の上に次々と人がよじ登り、最後は頂上の子どもが片手を挙げて完成を合図するその光景は迫力満点です 。これらの伝統芸はユネスコ無形文化遺産にも登録されており、シッチェスの祭ではそれらを一度に堪能できる贅沢さがあります 。祭り全体は地元の文化団体や地区ごとのグループによって運営されており、子どもから大人まで町中の人々が何ヶ月も前から準備に携わります 。まさに**「町民による町民のための祭」**であり、シッチェスの人々はこの祭典に強い誇りを抱いています。伝統衣装に身を包んだ住民たちが奏でる古典的なフルート(グラッラ)や太鼓の音色が街角に響き、夜が更けると現代音楽のビートに乗せて海辺でのパーティーが夜明けまで続くという、伝統と現代が融合した熱狂の二日間となります 。
関連リンク: Sitges Festa Major(公式観光サイト・英語)
おわりに
以上、2025年8月18日〜24日の週に世界各地で開催される3つの伝統的宗教行事をご紹介しました。それぞれ宗教も地域も異なる祭典ですが、信仰心や共同体の絆を再確認し、歴史ある伝統を次世代へと受け継いでいくという点で共通しています。残暑の時期、皆さんも遠く離れた地の人々が繰り広げる祈りと祝祭に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。次回は8月末〜9月初旬にかけて行われる世界の祭りをまた別の地域から取り上げてご紹介する予定です。お楽しみに!

