周易64卦384爻占断
384、火水未済(かすいびせい)上爻
◇ 火水未済とは何か?
火水未済(かすいびせい)は、上が火(離:り)/下が水(坎:かん)の卦です。
火は上へ、水は下へ――性質が噛み合いにくく、物事がまだ「まとまり切らない」段階を示します。けれど未済は、ただの不運ではありません。整っていないからこそ、手順を踏み、焦りを抑え、積み上げを続ければ、やがて既済(ととのう、なす、わたる)ところへ届く。
つまり未済は、急いで仕上げようとするほど崩れ、落ち着いて進むと最後には整う卦です。
◆ 卦全体が教えてくれること
未済が示すのは、「まだ渡り切っていない時の、軽はずみを戒めよ」という知恵です。
最初は難しく見えても、腰を据えて倦まずに進めば、後で整う道が開けます。ところが、入口の段階で見通しも固まらないうちに功を焦って踏み込み、途中で息切れして引き返すことになりやすい。
未済の運びは、勢いよりも、段取りと力の配分が決め手です。
◆ 上爻の爻辞と象伝
【爻辞(こうじ)】
「飲酒(いんしゅ)に孚(まこと)あり。咎(とが)なし。その首を濡(うるお)せば、孚(まこと)あるも是を失(うしな)う。」
【象伝(しょうでん)】
「酒(さけ)を飲(の)みて首を濡(うるお)すは、また節(せつ)を知(し)らざるなり。」
● 解釈
上爻は、長い未済の道のりを越えて、ようやく「済った」と言える地点に立った姿です。だから最初に出てくるのが「飲酒」です。ここでの酒は、ただの放縦ではなく、成就を祝い、互いの労をねぎらう場を指します。しかも「孚あり」と添えるのは、杯が心からの真情に支えられているからです。腹に計略がなく、祝う気持ちがまっすぐであるなら、その酒は「咎なし」――むしろ人の結び目を温め、仕上げの余韻としてよく働きます。
しかし、上爻が本当に恐れているのは、その次の一線です。未済は「終わった」ように見えた瞬間に、気がゆるみます。喜びが大きいほど、心は外へ流れ、歯止めが外れやすい。そこで爻辞は、わざわざ厳しい言い方をします――「その首を濡らせば」。尾を濡らすのではなく首を濡らすのは、自分が沈みかけるほどの危うさです。つまり、祝いがいつの間にか溺れに変わり、節度を踏み外し、言葉も行いも乱れてしまう。そうなると、たとえ最初が「孚」から出た喜びであっても、その誠は形だけになり、結局は信用も成果も手放すことになる――それが「孚あるも是を失う」の意味です。
象伝が「節を知らざるなり」と断じるのも、禁酒を説いているのではありません。言いたいのは、終わり際の節度が、成就を成就のまま保つという一点です。未済を済らせる力は、勝負の最中より、勝った後に試される。だから上爻は、祝いはよい、しかし溺れるな、驕るな、欲を足すな、と繰り返し戒めます。仕上げを守るとは、さらに上を狙って手を広げることではなく、得たものを静かに定着させ、余計な乱れを起こさないことなのです。
◆ 含まれる教え
- 成就の祝いが「孚(まこと)」に根ざすなら、咎にはならない
- ただし度を越して溺れると、得た成果を一気に失う
- 最後の局面は、力よりも「節度(せつど)」が運を分ける
- 驕り・強欲・油断は、仕上げを未済へ引き戻す入口になる
- 有終の美を結ぶには、軽く引き、慎ましくすることが必要
◆ 仕事
仕事では、一区切りの後こそ気の緩みが事故を呼ぶので、節度で締め直すほど安泰です。
- 大きな達成の直後ほど、気の緩みから小さなミスが起こりやすい
- 調子に乗って外の仕事に色々手を出すと身を破る因になりやすい
- 拡張や野心より、まずは守りを固め、成果を定着させるのが吉
- 祝宴や慰労の場は円満に働くが、言葉や態度が過ぎると禍根を残す
- 「終わりを整える」ことが、次の発展を確かなものにする
◆ 恋愛
恋愛では、うまくまとまった後の油断や惑溺が乱れを招くので、節度を添えて長続きをはかる必要があります。
- 盛り上がるほど、言い過ぎ・飲み過ぎ・勢い任せが出やすい
- “楽しい時間”の中でこそ、相手への配慮や礼を崩さないことが吉
- 秘密や逸脱に傾くと、せっかくの信頼を自分で壊しやすい
- すでにまとまった縁は吉だが、新しく始める話は軽率さで凶を呼びやすい
- 大事なのは、誠の喜びを「節度」で守り、静かに定着させること
◆ 火水未済(上爻)が教えてくれる生き方
この爻が教えるのは、「成就した後こそ、節を守って守り切る」という生き方です。
祝宴は咎ではない。けれど、喜びに溺れて自分を失えば、成果は一瞬で崩れ、未済へ戻る。
だから上爻は、勝った後にこそ驕らず、欲を足さず、互いに孚を尽くし合い、成果を静かに定着させよ――と告げています。

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