周易64卦384爻占断
311、艮為山(ごんいざん)5爻
◇ 艮とは何か?
艮為山(ごんいさん)は、「止まる」ことを本義とする卦です。山がその場にどっしりと在り続けるように、外の動きや内なる衝動に流されず、分を守って身を整える事が必要です。艮は消極的な停滞ではなく、動かないことで乱れを防ぎ、後の展開に備えるための節度と自制を含んでいます。
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◆ 卦全体が教えてくれること
艮の卦が一貫して教えるのは、「動くべきでない時に、どこで止まるか」という判断です。足、脚、腰、身と、止まる場所が次第に上へ移るにつれて、単なる行動の制止から、欲や思考、言葉といった内面の統制へと意味が深まっていきます。止めるべきところで止められるなら、過ちは外に現れず、悔いも残りません。
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◆ 五爻の爻辞と象伝
【爻辞】
「その輔(ほ)に艮(とど)まる。言序(じょ)あり。悔(くい)亡(ほろ)ぶ。」
【象伝】
「その輔(ほ)に艮(とど)まるは、以(もっ)て中正(ちゅうせい)なればなり。」
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● 解釈
五爻で示される「輔(ほ)」とは、口もと、すなわち言葉や飲食の出入りするところを指します。艮がここに及ぶということは、行動を止める段階を越え、欲や発言といった、より身近で制御の難しい部分を抑える局面に入ったことを意味します。
口は、欲望が出入りする場所であり、言葉によって災いを招きやすい所でもあります。そのため「その輔に艮まる」とは、飲食の不摂生や、思いつきの発言を慎み、軽率に外へ出さない姿勢を示します。ただし、この爻は単に黙することを求めているのではありません。
続く「言序あり」は、必要な言葉まで封じるのではなく、言うべきことは筋道を立て、順序正しく表すことを意味しています。衝動的に口を開くのではなく、整えた言葉として外に出す。その節度が保たれることで、行き違いや後悔が生じにくくなります。これが「悔亡ぶ」と結ばれる理由です。
象伝が「中正なればなり」と述べるのは、五爻が艮の道のちょうど中ほどにあり、止め過ぎにも、緩め過ぎにもならない、偏りのない在り方を保てるからだと見ます。口を慎むべき時に慎み、語るべき時には秩序をもって語る。そのバランスが取れているため、悔いに至らずに済むのです。
また、艮の諸爻の流れから見ると、ここまで厳しく「止まる」ことを重ねてきた結果、内側では次の段階へ進む準備が整い始めているとも考えられます。ただし、それは外へ勢いよく踏み出すことではなく、あくまで内を整えた上での、穏やかな移行です。五爻は、進む直前における最終的な自制の要所に当たります。
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◆ 含まれる教え
- 口は欲や災いの出入口になりやすいため、まず慎むべき場所である
- 黙るだけでなく、言うなら順序と筋道を整えることが大切
- 軽率な一言や不注意が悔いを生むため、口の段階で止めるのが有効
- 偏らない節度が、悔いを残さない結果につながる
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◆ 仕事
仕事においては、発言や連絡の仕方が成果を左右しやすい時です。考えがあっても、言葉が先走ると誤解や反発を招きやすくなります。五爻は、意見を述べる前に一度整え、順を追って伝えることの重要性を示します。会議や交渉では、結論を急がず、背景や理由を含めて説明することで、物事が収まりやすくなります。
また、飲食や私的な振る舞いが評価に影響する暗示も含まれます。仕事運としては、急進よりも慎重な運びが有利で、これまで滞っていた事柄も、言葉の整え方一つで改善の兆しが見えてくるでしょう。
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◆ 恋愛
恋愛面では、感情のままに言葉を発すると、関係がこじれやすい時です。五爻は、気持ちを伝えないことを勧めるのではなく、どう伝えるかを重視しています。不満や要望がある場合も、責める形ではなく、順序立てて静かに伝えることで、相手に届きやすくなります。
縁談や関係の進展はやや澁りがちですが、焦らず、言葉の行き違いを避けて進めば、後には安定した関係につながる可能性があります。軽い一言で流れを損なわないことが、何よりの注意点です。
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◆ 艮為山・五爻が教える生き方
艮為山の五爻は、止まる力を「口」にまで及ぼし、飲食の欲や言葉を節度によって制することの大切さを教えます。衝動を抑え、語るべきことは整えて語る。その慎みが、悔いを未然に防ぎ、次の段階へ進むための確かな土台となります。静かな自制の積み重ねこそが、この爻の示す生き方です。

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