周易64卦384爻占断
277、沢水困(たくすいこん)初爻
◇ 困とは何か?
沢水困(たくすいこん)は、水(坎)が沢(兌)の下にあって通り道を失い、潤いが尽きて塞がる象から、身動きが取りにくい「窮迫」の時を示す卦です。
ただし困は、ただ苦しいだけの卦ではありません。困の時にあっても、大人君子は「その亨る所を失わぬ」――つまり、外が塞がっても内の道(志・徳・筋)を手放さない。ここに困の核心があります。
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◆ 卦全体が教えてくれること
困が示すのは、
- 苦しさに押されて視界が狭くなりやすい
- その結果、みだりに動いてさらに窮地へ迷い込みやすい
- だからこそ、貞を守り、焦りの妄動を断つことが最大の守りになる
という戒めです。
初爻は、その困の入口――まだ整え直す前の段階で、心が騒ぎ、足場も定まらず、暗い方へ吸い込まれやすい地点に当たります。
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◆ 初爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「臀(いさらえ)・株木(しゅぼく)に困(くる)しむ。幽谷(ゆうこく)に入る。三歳観(み)ず。」
【象伝】
「幽谷(ゆうこく)に入るは、幽(ゆう)にして明ならざるなり。」
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● 解釈
初爻は剛ではなく柔であり、また中も得ていない、困の時に必要な「貞」を貫きにくいところです。苦しみを味わうと、腰を据えて耐えるより先に、どうしてもみだりに騒いで動きたくなる――その動きが、かえって窮地を深めます。
爻辞の「臀、株木に困しむ」は、まさに安居の出来ない苦しさの形容です。潤いを失った困の卦にあっては、木は枯れ、根元は切株のように固く痛々しい。そこへ坐すれば、臀が痛むほど落ち着けない。つまり、外の状況も内の心も、どちらも“座りが悪い”のです。
そして、その落ち着きのなさに押されて動くと「幽谷に入る」。坎は暗さ、穴、隠伏の象を持ち、初爻はその“下”に当たるため、行き先は明るい平地ではなく、幽(くら)くして明らかならぬ谷へ入り込みやすい。象伝が「幽にして明ならざるなり」と言うのは、状況の暗さだけでなく、判断の灯が伏してしまい、自分でも出口が見えなくなることを指しています。
最後の「三歳観ず」は、年数の厳密さではなく、いつまでも、長く、目が開けないような閉塞の感触を表します。動けば動くほど視界が濁り、方針を替えれば替えるほど下へ寄る――そういう悪循環に陥りやすい爻です。だから、この爻が告げる最重要点は、奇策や変転ではなく、まずは妄動を止め、踏み止まって立て直すことにあります。
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◆ 含まれる教え
- 困の入口では、落ち着きのなさが最大の敵になる
- 苦しさに耐えきれず動くと、幽谷に入る(暗さが深まり、判断も曇る)
- 方針変更・場所替え・小手先は、かえって悪化を招きやすい
- 「三歳観ず」=閉塞は長引きやすいゆえ、最初に踏み止まる勇気が要る
- 明かりを取り戻すには、動くより先に、立ち止まって内を整えること
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◆ 仕事
仕事では、窮乏や行き詰まりから、環境や方針を次々に変えたくなる時です。けれどこの初爻は、変えるほどに結果は悪く出やすくなります。
- 条件替え・取引替え・手段替えを繰り返すと、かえって泥沼化しやすい
- 苦しまぎれの奇策は裏目に出やすく、失敗が連鎖しやすい
- 最善は、まず出血と混乱を止めること(固定費・やること・約束事の整理)
- 「今すぐ勝つ」より、倒れない形に整え直す方が、後の回復につながる
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◆ 恋愛
恋愛では、落ち着かない心から、言葉や行動が空回りしやすい時です。
- 不安や焦りが強いほど、確認・詮索・衝動的な決断に寄りやすい
- その結果、かえって関係が暗い谷へ入り、見通しが悪くなりやすい
- 今は、結論を急がず、余計な一手を控えることが守りになる
- 安心を取り戻すには、相手を動かすより先に、自分の足場を整えること
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◆ 沢水困(初爻)が教えてくれる生き方
初爻が語るのは、こういう教えです。
「困る時ほど、動いて抜けようとするな。まず踏み止まり、明かりを消す行いをやめよ。」
切株に坐すような居心地の悪さが出ても、幽谷へ迷い込む一歩を止められるのは自分だけです。
焦って動くほど暗くなる。だからこそ、いまは“動かない強さ”を選び、足元を固めて、少しずつ明を取り戻す――それがこの爻の生き方です。

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