周易64卦384爻占断
276、地風升(ちふうしょう)上爻
◇ 升とは何か?
地風升(ちふうしょう)は、地中の木(巽)が、養いを受けて地上へ顔を出し、さらに伸長してゆく象から、「徳や力を養いつつ、段階を踏んで昇りゆく時」を示す卦です。
ただし升は、勢いだけで駆け上がる卦ではありません。下からの支えを得てこそ上に通じ、また上に立つほどに、慢心・過進・限界の見誤りが最大の落とし穴になります。
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◆ 卦全体が教えてくれること
升が教えるのは、昇ることそのものより「昇り方」です。
誠と順を失わず、下の力を活かし、時に応じて歩を進める――それが升の本道です。
しかし最終段階に至ると、昇る力が強いほど、「これ以上は昇る所がない」という地点にぶつかります。上爻はまさにそこ。栄位が極まり、ひと押しで崩れやすい、危うい頂に立つところです。
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◆ 上爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「冥升(めいしょう)す。息(や)まざるの貞(てい)に利(よ)ろし。」
【象伝】
「冥升(めいしょう)りて上に在らば、消(しょう)して富(と)まざるなり。」
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● 解釈
上爻は、升り詰めて位人身の栄を極めたところにあります。ここは、初爻や三爻のように「さらに上へ」と伸びる場ではなく、むしろ――これ以上進めば、亢(たかぶ)り進んで悔いを招くという境目です。
そこで爻辞は「冥升」と言います。これは、光の中の堂々たる昇進というより、昇りながら心が冥(くら)む、あるいは冥いままに進んでしまう危うさを含んだ言葉です。上にあるがゆえに、見えにくい。高みにあるがゆえに、足元が暗い。そういう“頂の盲点”が出やすいのです。
だからこそ「息まざるの貞に利ろし」と戒めます。ここで言う「息まず」は、むやみに働き続けよ、ではありません。むしろ反対で、進もうとする衝動を絶えず制し、止まるべきを止まるという、強い自制のことです。
しかもそれは、ただ「動かないように我慢する」程度では足りない。象伝が「消して富まざるなり」と言うように、進みたい心そのものを消し減らし、謙退の姿勢に切り替える必要があるのです。
この上爻を得る時、対処はたしかに難しく見えます。進めば深い破局に触れやすく、止まれば内に騒ぎが起こり、退こうとしても思うように運ばない――そうした“身動きの取りづらさ”が出やすい。だからこそ、ここで必要なのは、消極的に見える退却を、断乎たる積極の勇で遂行することです。
さらに変じて蠱(こ)となる意を合わせれば、行き付くところまで来たがゆえに、内部に腐れが生じ、方向転換と手入れ(刷新)が不可避である、という筋道がはっきりします。現状維持で持つ段階は過ぎ、強いてこのまま進めば、得たものまで失いかねない――上爻はそこを鋭く突いています。
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◆ 含まれる教え
この爻が教える要点は、次の通りです。
- 頂にある時ほど、足元は暗くなる(冥升)
- 進み続けるのではなく、進みたい心を制し、消し、退く(息まざるの貞/消して富まざる)
- 現状維持ではなく、腐敗の手入れと転換が要る(変じて蠱)
- 得たものに目がくらむと、限界を見誤って総崩れになりやすい
- “退く”は敗走ではなく、全損を防ぐための最上の戦略になる
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◆ 仕事
仕事では、地位・評価・権限が頂点に近いほど、判断が冥くなりやすい時です。
- 拡大や強行を続けると、どこかで覆滅的な崩れを招きやすい
- 表面の勢いに反して、内部に腐れ・綻び・惰性が溜まっている可能性が高い
- 今必要なのは“前進”より、縮める・整える・手入れすること
- 人員・仕組み・運用の見直し、負担の削減、責任範囲の整理が吉
- 退くべき所で退ける人ほど、結局は信用を守る
この爻は「もう行き付くどんづまり」と言うほどの局面を示しがちです。だからこそ、華やかな成果を追うより、損失の増大を止める判断、そして蠱の象に従って、痛んだ箇所を直すことが要になります。
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◆ 恋愛
恋愛では、気持ちが高ぶるほど、相手や状況が“暗いまま”見えにくくなる時です。
- 盛り上がりや勢いに任せると、後から違和感が噴き出す
- 相手の言葉や雰囲気に“上ッ調子”が混じりやすいので、誠の見極めが大切
- 進めるより、いったん間合いを取り、静かに観察して整える方がよい
- 無理に形を作るより、関係の土台(信頼・約束・生活感覚)を点検すること
この上爻は、恋に限らず「暗いまま進んで失敗しやすい」と読める爻です。だから、今は“押す”より“引く”。引くことで、むしろ真実が浮かびます。
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◆ 地風升(上爻)が教えてくれる生き方
上爻が告げるのは、こういう生き方です。
「栄が極まる時こそ、進みたい心を消し、謙退して転落を防げ。」
昇りきった者に必要なのは、もう一段の上ではなく、足場を固め、腐敗を手入れし、引き際を誤らないこと。
冥いまま進むのをやめ、いったん退いて光を取り戻す――それがこの爻の、もっとも深い戒めです。


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