241、山沢損(さんたくそん)初爻占断

周易64卦384爻占断

周易64卦384爻占断

241、山沢損(さんたくそん)初爻

◇ 損とは何か?

山沢損(さんたくそん)は、「減らして補う」「自らを損して他を益す」ことを象徴する卦です。

上卦は艮(山)、下卦は兌(沢)。沢の潤いは本来下に広がりますが、そこを上の山が受け止める形となり、下の豊かさを削って上の不足を支えるという“配分の転換”が卦の骨格になります。

損は、ただの節約や我慢ではありません。

必要なところへ資源・手間・心を回すために、いま手元にある余裕を意識的に差し出す。

その結果として全体が保たれ、後の益(増加)へつながる――そうした「先に減らす智慧」を教えます。

◆ 卦全体が教えてくれること

損の卦が告げるのは、

  • 足りないところが先に立つ
  • 余っている側が先に動く
  • 早い対応がそのまま効果になる

という局面です。

特に初爻は、損の意味が最も強く出ます。

下にある豊かなものを割いて、上の不足へ回すのが損の本義である以上、「遅れるほど手遅れになりやすい」。

だから損は、後回しよりも“即応”が肝心になります。

◆ 初爻の爻辞と解釈

【爻辞】

「事を已(や)めて遄(すみや)かに往(ゆ)く。咎无し。酌(はか)りて之を損す。」

【象伝】

「事を已(や)めて遄(すみや)かに往くは、尚(かみ)志を合すなり。」

● 解釈

これは損の初めにあって、損の意味の最も強いところです。

下にある豊かなものを割いて他を益してやらねばならないという局面である以上、益される側は早ければ早いほど救われ、また満たされる必要もその分だけ確かになる。よって損の卦は、初位ほど卦意が強く、上へ進むほど薄らいでゆく理になります。

喩えれば、堤防が崩れて欠けた場所を砂で補うのも損であり、国家に戦が起こって兵を募るのも損であります。いずれも、初動が遅れれば間に合わず、早ければ一挙に収まりやすい。そこで初爻は「事を已めて遄かに往く」となるのです。

「事」とは現に携わっている仕事であり、「往く」とは損を行うこと。爻象で言えば、応位である四爻の陰へ益してやることに当たります。己れを損して咎なきを得るのですが、その際、初爻は陽位にある正しいものだから動かずともよい、などと悠長に構えず、上の乏しさが逼迫していること、損することが自らの仕事を放擲してでも行うべき意義を持つことを酌量し、損すべきものを損するべきだという意味になります。

象伝の「尚(かみ)志を合すなり」は、初爻が速やかに損を行うのは、上の乏しきを憂いながらも力の足らぬ応位の四爻が、何とかして上を益そうとしている志に応じ、志を合せることを尊ぶからだと説くのです。尚を上に通じて見る伝統的な解釈も、ここでは四爻を指すものとして筋が通ります。

◆ 含まれる教え

この爻が教えるのは、損の時における実行原理です。

  • 迷いを切って「いまの事」を止める
  • すぐに動く(遄かに往く)
  • しかし無分別に削るのではなく、酌量して損す

つまり、即応と分別の両立です。

損を急ぐべき局面であっても、削り方を誤れば全体が破れます。

だから「酌りて之を損す」とあるのです。

◆ 仕事

この爻を得た時には、人のために世話苦労を余儀なくされ、親戚のための失費などがありがちと見ます。

公のために奉する象もあり、増税や救恤醵金のような“負担”に似た出来事が視野に入ります。

また、この初爻を損して四爻へ益すると未済に変じ、心配して動いてもそれだけで解決に至りにくい兆があります。とはいえ、成否や利害を顧慮して手をこまねくより、やるだけのことは早めに尽くすべき局面と見ます。

事業・経営では、本筋以外のところへ労力や資金を投ぜねばならぬ破目に陥り、損失を見ることがある。新規ならまず見合せが無難。

交渉や取引は、まとまるなら多少の損があっても早く片付け、永引くなら中止も視野に入れる――これが初爻の要点です。

◆ 恋愛

縁談はあまり面白くないと見ます。

義理につまされ「こちらが差し出す」形になりやすく、損の色が濃い。行くなら行くで、相手のために尽す苦労を覚悟して進むべきで、普通には見合せて無事と判断します。

無理に形を整えに行くよりも、損の負担が自分に偏らぬかをよく量り、早めに判断するのがよい時です。

◆ 山沢損(初爻)が教えてくれる生き方

初爻が教える生き方は明確です。

「必要なところへ回すために、いまの手を止め、すぐ動け。

ただし、削る量は量って決めよ。」

損の時は、先延ばしが最も高くつきます。

そして“急ぐ”ことと“雑に削る”ことは違う。

速やかに、しかし酌量して――その姿勢が、咎なきを得る道なのです。

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