229、水山蹇(すいざんけん)初爻占断

周易64卦384爻占断

周易64卦384爻占断

229、水山蹇(すいざんけん)初爻

◇ 蹇とは何か?

水山蹇(すいざんけん)は、「行き悩み」「障害」「進退の困難」を象徴する卦です。

上卦は坎(水)、下卦は艮(山)であり、山の前に深い水が立ちはだかる形となるため、進もうとすれば危険に陥りやすく、足を取られて前進できない象を示します。

蹇は、努力不足や怠惰を責める卦ではありません。むしろ、状況そのものが険しく、正面突破が許されない時に、どう身を処し、どう時を待つかを教える卦です。

無理に進めば傷を負い、退いて時を待てば身を保てる――その「止まる知恵」「退く勇気」こそが、蹇の核心です。

◆ 卦全体が教えてくれること

蹇の卦は、

進めば苦しみが増し、

立ち止まれば安全が保たれる、

という明確な構図を示します。

この卦において重要なのは、

「どう突破するか」ではなく、「いつまで動かないか」です。

困難な時ほど、人は早く抜け出そうとして焦り、かえって深みにはまります。しかし蹇は、困難が永続するとは告げていません。険しさはやがて変化し、進める時は必ず来る。ただしそれは、正しい時機を待った者にのみ与えられる、という姿勢が貫かれています。

初爻は、その蹇の始まりに位置し、最初にどう動くべきか、あるいは動くべきでないかを、端的に示す爻です。

◆ 初爻の爻辞と解釈

【爻辞】

「往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(きた)れば誉(ほま)れあり。」

【象伝】

「往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(きた)れば誉(ほま)れあるは、宜(よろ)しく待(ま)つべきなり。」

● 解釈

初爻は蹇の入口にあたり、位も正しくなく、上に応ずる相手も持たない立場です。この段階で前に進むことは、状況を見誤った無理な行動となり、必ず困難の中へ踏み込むことになります。これが「往けば蹇み」です。

一方、「来れば誉あり」とは、退いて身を守れば積極的な成果が得られる、という意味ではありません。ここでいう誉とは、成功や称賛ではなく、過失を犯さず、名を汚さず、身を損なわずに済むという、消極的だが確かな価値を指します。

すなわち、進まずに止まることそのものが、評価に値する判断である、ということです。

象伝が「宜しく待つべきなり」と言うのは、単なる消極ではなく、状況を見極め、変化の時を俟つという、意識的な静止を求めているのです。初爻は、険しさの正体を見抜き、まだ動く時ではないと知る「知」の試練に当たっています。

◆ 含まれる教え

この爻が教えるのは、

危機において最も難しい選択は「何もしないこと」である、という現実です。

・焦って動けば傷を負う

・立ち止まれば少なくとも失わない

・評価は、結果よりも判断の正しさに宿る

蹇の初めにおいては、勇敢さよりも慎重さ、行動力よりも自制心が求められます。退くことは敗北ではなく、身を全うするための正しい判断です。

◆ 仕事

仕事では、環境や条件が整っておらず、進めば進むほど障害が増える時です。新しい企画、交渉、転職、拡張などは、今は凶に傾きます。

無理に成果を出そうとせず、現状維持と内部の整理に徹することが最善です。動かなかったこと自体が、後に評価される局面もあります。

特に、危うい話や急な誘いには応じず、様子を見る姿勢が肝要です。

◆ 恋愛

恋愛では、関係が停滞していたり、障害が多く、前進しようとすると摩擦が生じやすい時です。想いを押し通そうとすれば、かえって関係を壊す恐れがあります。

ここでは、距離を保ち、相手や状況の変化を待つことが、結果的に名誉を保つ道です。

無理に白黒をつけず、静かに時を俟てば、後に進展の機が訪れる可能性があります。

◆ 水山蹇(初爻)が教えてくれる生き方

初爻が教える生き方は、

「進まない勇気を持て」という一点に尽きます。

困難の入口に立った時、人は行動で打開しようとします。しかし蹇は、行動こそが危険を深める場合があることを示します。

今は退き、止まり、身を守る。名を汚さず、力を温存し、変化の兆しを待つ。

蹇の初めにおいて吉を得るとは、勝つことではなく、失わないことです。その静かな判断こそが、やがて険しさを越えるための、確かな土台となるのです。

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