周易64卦384爻占断
215、地火明夷(ちかめいい)5爻
◇ 明夷とは何か?
地火明夷(ちかめいい)は、大地(坤)の下に太陽(離)が沈み、
光が外へ出られず、明徳が傷つけられる「日没の卦」です。
この卦が示すものは、
- 賢者・有能な者が正当に扱われない
- 明るさが覆われ、志が通じにくい
- 外へ出るほど害が増し、内に沈むほど明を保てる
という、光が“生きるために隠れねばならぬ時”です。
明夷は光が失われる卦ではなく、
光を守り、時を待つための隠忍と節操を教えます。
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◆ 卦全体が教えてくれること
明夷が伝えるのは、
- 外界は暗昧で、正道が通らない
- 光(明智、明徳、聡明)を強く出すほど傷つく
- 隠れて時を待つ方が吉
- 不利な環境の中で、いかに“明を消さず”生きるかが要
という、しなやかな処世の智慧です。
五爻は君位にあるにもかかわらず柔中を得ており、
本来の主でありながら権を奪われ、外の闇を耐え忍ぶ位置です。
ここから「箕子の明夷」という象徴的な故事が導かれます。
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◆ 五爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「箕子(きし)の明夷。貞に利し。」
【象伝】
「箕子の貞は、明(めい)息(や)む可(べ)からざるなり。」
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● 解釈
五爻は、明夷の原因となる暗主(上爻)に対し、
本来その地位を継ぐべき“真の主”の位置にあります。
しかし柔中であり、権力を奪い返す力を持たず、
そのために世が暗昧に覆われています。
この状況を象徴する人物として 箕子(きし) の名が挙げられます。
箕子は殷王朝の賢臣で、
すがその意見が容れられず、
暴君紂の治世において明徳を保つために
狂を装い、身を隠して災いを免れた
と伝えられています。
もし箕子の主張が通っていれば、
明夷ではなく「水火既済」の卦となり、
道が世に行われていたはずである──
という対照的な例として引用されているのです。
五爻は柔中正にして明を守りつつも、
闇を正す力が不足しているため、
光をあえて消して身を保つ“箕子の明夷” となります。
象伝は
「明は決して息む(消える)ことがない」
と述べ、
五爻が外見上は明を曇らせても、
内なる明徳は決して途切れないことを教えています。
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◆ 含まれる教え
五爻は、明夷の中で最も深い教訓を示します。
- 正しい者が力を失い、闇が上に立つ
- しかし争っては必ず傷つく
- 身を低くして明を守り、時を待つことが最大の吉
- 明は一時隠れても絶えず、後に必ず甦る
- 苦難は極まりつつあり、上爻(次の段階)で転機が来る
つまり五爻は、
「忍辱・節操・不屈の明」 を象徴します。
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◆ 仕事
仕事では、
- 思うように進まず、外部の圧迫・妨害が多い
- 自分が本来いるべき位置を他に奪われる
- 努力が認められず、孤独を感じやすい
- 進んでも阻まれ、退いても妨げられる
という、非常に困難な時期を示します。
しかしここで重要なのは、
軽挙妄動、強行突破こそ最大の凶である
という点です。
- 今は耐え、現状を守ること
- 機が来るのは遠くなく、焦らないこと
- 仕掛けず、妥協もせず、ただ節操を保つこと
事業・計画は進みにくいが、
ここで投げ出せば全てが水泡に帰すため、
動かず、時を待つ姿勢が最善の策略となります。
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◆ 恋愛
恋愛では、
- 良縁ではなく、困難・妨害が多い
- 相手に他の異性が潜んでいたり、思わぬ不誠実が発覚したりする
- 男性なら、相手に圧されて心が疲れる象
- 女性なら、相手の影(別の異性・不正)が見抜きにくい
いずれにしても、
今は見合わせるべき時。
無理に進めば大きな後悔を生じやすい爻です。
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◆ 地火明夷(五爻)が教えてくれる生き方
五爻は人生にこう語りかけます。
「正しい者が報われぬ時、明を守るのは“戦うこと”ではなく“耐えること”である。」
- 明を外へ出すより、内に守るべき時
- 闇と争えば傷つくだけ
- 時が熟せば、明は自然に地上へ還る
- 不屈の節操こそ、後の再興を可能にする
- 苦難は頂点にあり、転機は目前に迫る
箕子が示したように、
ただ静かに明を守り、時の到来を待つ。
それが五爻の道であり、明夷の中の最も高い徳なのです。

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