周易64卦384爻占断
183、沢山咸(たくざんかん)3爻
◇ 咸とは何か?
咸(かん)は「感じる」「心が動く」「互いに響き合う」卦です。
感情が芽生え、思いが外に向かって動き始めるときに生じます。
しかし、心の動きは美しくも脆いもの。
方向を誤れば、次の一歩は凶につながりやすく、
外からの刺激に振り回されるほど道を失いがちです。
咸の卦が教えるのは、
「心が動くときほど、慎みと自制が必要である」
という、情の扱い方に関する深い学びです。
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◆ 卦全体が教えてくれること
咸の卦は、
「感じる」ことで人が動く瞬間を写しています。
ただし、
心が揺れれば、身体も動いてしまう。
その動きが正しい方向に向かうかどうかは、
“誰に感応するか” によって決まります。
正しい相手・ふさわしい対象に心が動けば吉。
しかし、間違った相手・身近な誘惑に揺れれば凶。
卦全体を貫く教えは、
「感情に動かされるな。
動くなら、正しく感応せよ。」
という慎ましい姿勢です。
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◆ 三爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「其の股に咸ず、その随うを執る。往けば吝。」
【象伝】
「其の股に咸ずるは、また處らざるなり。志人に随うに在り、執るところ下なり。」
■ 解釈
三爻は「股(もも)」に当たります。
股は、自分の意思で動くというより、
ふくらはぎ(=二爻)が動けば、それに引っ張られる
という構造になっています。
これはそのままこの爻の象徴。
三爻は本来、艮の主として“止まるべき”位置にありますが、
止まることができず、
正応である上爻にも向かわず、
ひたすら二爻(近くのもの)に引きずられる。
象伝はそれを
「執るところ下なり」
と強く批判します。
つまり、
- もっと高い目標があるのに
- 正しい方向が別にあるのに
- 目先の存在(比の二爻)に固執してしまう
という 志の低さ・依存・怠惰 を示すのです。
爻辞の「往けば吝」は
そのまま動けば必ず後悔する
という警告です。
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◆ 含まれる教え
- 手近な人・目の前の誘惑がもっとも危ない
- 正しい相手(上爻)に向かうべき時に、下に引きずられる
- 情に溺れると必ず道を誤る
- 動くほど後悔し、留まれば害は避けられる
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◆ 仕事
三爻は「志の低さ」が最大の問題。
本来なら大目標に向けて踏み出すべき時なのに、
身近な存在・楽な道・気安い人間関係に引っ張られ、
本来の実力や方向性を見失いやすくなっています。
特に、
- 腐れ縁の取引先
- 気安い同僚の誘惑
- “手近な儲け話”
- 小さな案件ばかり気にかけて本丸を失う
など、
“付き合いや惰性” が足を引っ張る時期です。
事業は停滞し、
信用も薄れ、
どれだけ努力しても成果が見えにくい時。
今は、
悪縁を切る・執着を捨てる・動かず現状を維持する
ことが重要です。
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◆ 恋愛・婚姻
三爻の咸は、
情事の間違い を最も強く戒める場所です。
象徴としては、
- 目先の異性に流れる
- 家庭以外のところに心が向く
- 内縁関係
- 浮気
- 情によって身を滅ぼす
などが典型。
婚姻を求めるには不適で、
今ある関係は
「情だけでつながっている」「身持ちに問題がある」
という凶意を含んでいます。
まとまる場合でも、
すでに半同棲・既成事実など、
“本筋でないつながり” の暗示があります。
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◆ 沢山咸(三爻)が教えてくれる生き方
三爻が伝える人生の教えは、
ひと言でいえば、
「志を低くするな」
というものです。
人は、
疲れている時、迷っている時、
本来向かうべき高い場所ではなく、
近くのもの・楽なもの・甘いもの に引きずられがちです。
しかし三爻はこう告げます。
「低きに流れるほど、道は濁り、心は曇る。
今は動くな。
本来の方向を見失わぬよう、止まりて己を守れ。」
情に流されず、
身近な誘惑に負けず、
静かに立ち止まり、
自分の本当の目標を思い出すこと。
その慎みこそが、
咸(三爻)の凶意を超えていく唯一の道なのです。


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