周易64卦384爻占断
165、沢風大過(たくふうたいか)3爻
◇ 大過とは何か?
沢風大過(たくふうたいか)は、「大いに過(す)ぎる」という意味を持ちます。
上卦は沢(兌)で「悦び」、下卦は風(巽)で「従順」。
柔が上下にあり、剛が中に集まるため、中が重く外が軽い不安定な構造を示します。
これは、過剰な責任・過度の圧力・限界を超えた状態を象徴し、
その中において、いかに折れずに正道を守るかが問われる卦です。
大過は危うさを孕むと同時に、極限からの転換・再生の契機でもあります。
「重きを背負いながら、なお折れずに耐える智慧」――
それがこの卦が伝える核心です。
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◆ 卦全体が教えてくれること
大過は、事がすでに頂点に達し、均衡を失っている時を示します。
今は力を張って進むよりも、慎みと節度によって災いを避けるべき時。
あらゆる重圧の中で、無理をしない・抱え込みすぎない・支えを求めることが肝要です。
しかしその支えが得られない時は、潔く退く勇気を持つ――
それもまた、大過の教える「過ぎたるを慎む」道なのです。
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◆ 三爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「棟(むなぎ)橈(たわ)む、凶。」
【象伝】
「棟橈(むなぎたわむ)の凶は、以って輔(たす)け有るべからざるなり。」
解釈:
第三爻は、大過の卦における最も重圧の集中する位置です。
家屋で言えば「棟(むなぎ)」の位置にあたり、
建物のすべての重みがここにのしかかる状態。
この爻は陽爻が陽位にあり、強すぎてしなやかさがない。
しかも上下の支えを欠き、応爻である上爻もまた柔弱で頼りにならず、
まさに孤立無援の状態です。
そのため、棟がたわみ、今にも崩れ落ちようとしている――これが「棟橈む」の象です。
象伝に「輔け有るべからざるなり」とあるように、
すでに外から助ける手立てがない。
人も財も尽き、頼むべき支柱が存在しない。
まさに大過の極致、凶の至りです。
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◆ 含まれる教え
- 支えを失った時、人は己の限界を知る。
- 強すぎる者ほど、折れやすい。
- 無理を重ねることは、善ではなく、破滅を招く行為である。
- 助けを求めるより、退いて被害を最小限にする知恵を。
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◆ 仕事
この爻を得た時の仕事運は、最悪の凶相です。
事業はすでに限界を超えており、損失・破産・崩壊などが現実化する段階。
自業自得の面が強く、他人の忠告を聞かずに拡張・投機・強行を続けた結果です。
いまはもはや「立て直す」段階ではなく、
損切り・撤退・縮小の決断を下すべき時です。
他人の同情や援助を求めても、誰も助けてはくれません。
むしろ周囲を巻き込み、迷惑を広げてしまう危険があります。
潔く身を引き、静かに無事を念ずること――
それが唯一残された「咎なき道」です。
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◆ 恋愛
婚姻・恋愛においても凶です。
関係はすでに限界に達しており、修復は困難。
相手に頼ろうとすればするほど、互いの負担が増し、
やがては崩壊という結果を迎えます。
また、家族や周囲の反対を押し切って続けてきた関係も、
この時期には無理が表面化して終止符を打たれることが多いでしょう。
執着を断ち切り、潔く別れる決断が、後の救いとなります。
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◆ 沢風大過(三爻)が教えてくれる生き方
この爻が教えるのは、
「背負いきれぬものを、背負ってはならぬ」という教えです。
棟がたわむのは、木が悪いのではなく、
その木に過ぎた重みを負わせたから。
人もまた同じ。力に見合わぬ責務を背負えば、
やがて崩れ、己も他人も傷つけることになります。
だからこそ今は、
「耐える」ではなく「退く」ことが、最も勇気ある選択です。
支えを求めても得られぬ時は、すべてを下ろし、休むこと。
それが、大過の三爻が示す、最深の凶を避ける唯一の智慧なのです。

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