周易64卦384爻占断
163、沢風大過(たくふうたいか)初爻
◇ 大過とは何か?
沢風大過(たくふうたいか)は、「大いに過(す)ぎる」という意を持ちます。
上卦は沢(兌)で「悦び」、下卦は風(巽)で「順う」。
柔が上下にあり、剛が中に集まる形で、内に重く、外に軽い構造をしています。
そのため、バランスを欠き、今にも折れそうな大木のような危うさを象徴します。
大過とは、物事が限界を超えた状態――つまり「重大な責任」や「転換期」を意味し、
その中でいかに柔軟に処すかが鍵となります。
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◆ 卦全体が教えてくれること
大過の卦は、「重きを負う危うき時に、剛中の徳で正しく支えよ」と教えます。
過度の重責、過大な任務、または極端な状況に直面しても、
正道を守り、柔をもって剛を制すことが求められる時です。
外見の華やかさに惑わされず、内面をしっかりと整え、
過ぎたものを支えきるために、心の柔らかさと慎みを持つこと。
それが、この卦の真意です。
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◆ 初爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「藉(し)くに白茅(はくぼう)を用う。咎无し」
【象伝】
「藉くに白茅を用うるは、柔に下に在るなり。」
解釈:
「白茅(はくぼう)」とは、柔らかく清浄なチガヤのこと。
古代では祭祀の際、供物を置くためにこの白茅を敷き、清めと慎みの心を表しました。
初爻は陰位に居て柔弱、本末の“本”にあたる位置です。
上には四つの剛陽が重く乗っており、非常に重圧を受けています。
そのため、この爻が取るべき態度は、強く抗することではなく、柔らかく包み、慎み深く応じること。
「柔よく剛を制す」の理そのもので、
白茅を敷くように、心を低く、態度をやわらかにして受け入れれば、
たとえ重きに当たっても「咎无し」とされます。
象伝の「柔に下に在るなり」とは、
己の弱さを知り、あえて謙虚に、低い位置から受けとめる姿勢を指します。
その謙虚こそが、この難局をしのぐ唯一の徳なのです。
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◆ 含まれる教え
- 重き責を負う時こそ、柔らかく慎むことが救いとなる。
- 力不足を知り、無理をせず、時を待つ。
- 白茅のように清く柔らかく――反発よりも受容の力を。
- 剛を避け、柔で制す。それが「咎无し」の道。
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◆ 仕事
この爻を得た時の仕事運は、大事を避け、静かに身を守るべき時です。
大過の時は何事も重くのしかかる傾向があります。
たとえ周囲から期待されても、自身の力量をよく見極め、
その任に堪えないと判断したならば、柔らかく辞退する勇気が必要です。
特に新規事業・転職・責任ある地位の引き受けは、現時点では不利。
名誉や利益に誘われて軽々しく応じると、
後に身動きが取れなくなり、大きな損失を招く恐れがあります。
今は慎みをもって、身を低く、力を蓄える時です。
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◆ 恋愛
婚姻・恋愛においても、時期尚早・力不足の相です。
相手や状況に勢いがあり、自分が主導するのは難しい時。
ここでは強く押し出すよりも、やんわりと辞退・距離を置くことが吉です。
白茅のような柔らかさをもって相手を包み、
波風を立てないようにするのが最良の策。
いまは良縁を無理に進めるべきではなく、
時が巡って自然に訪れる縁を待つのがよいでしょう。
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◆ 沢風大過(初爻)が教えてくれる生き方
この爻が教えるのは、「柔こそ最大の防御」という生き方です。
力が足りぬとき、強がって動けば災いを招く。
しかし、自らの非力を受け入れ、慎みをもって行動すれば、
どんな重責の下でも、心は安らぎ、危険を避けることができます。
白茅を敷くように、心を清め、態度を柔らかに。
強きを避けて正を守る――それが、大過の初爻における「咎无し」の智慧です。


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