周易64卦384爻占断
153、山天大畜(さんてんたいちく)3爻
◇ 大畜とは何か?
山天大畜(さんてんたいちく)は、「大いに畜(たくわ)える」ことを意味します。
上卦は山(艮)、下卦は天(乾)。天の動きを山が上から止める象は、動く力を外に出さず、内に徳・知・力・人材を養うことを示します。
発動の前に根を張り、備えを厚くする――大業は静の蓄えから始まるのです。
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◆ 卦全体が教えてくれること
大畜は、「止まるべき時に止まり、涵養・蓄積を優先せよ」という教えです。
焦って進めば力は散り、時を待ち鍛えれば、やがて機が熟して自然に事は通ります。
止めることは消極ではなく、将来の飛躍に直結する能動的な準備です。
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◆ 三爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「良馬(りょうば)逐(お)う。艱貞(かんてい)に利(よ)ろし。日々(ひび)に輿衞(よえい)を閑(なら)う。往(ゆ)く攸(ところ)有(あ)るに利(よ)ろし。」
【象伝】
「往(ゆ)く攸(ところ)有(あ)るに利(よ)ろしきは、上(かみ)志(こころざし)を合(あ)わすなり。」
解釈:
三爻は内卦の極、三つの陽爻の最上位にあって下の二爻を率先する位置です。
大畜の時は既に久しく、実力は相当に備わっているが、なお一段の熟成を要する段階。
「良馬逐う」は、駿馬を追って鍛える意で、文武・技芸・学徳の錬磨を譬えます。
「艱貞に利ろし」は、進みたい心をあえて艱(なや)み、貞(ただ)しさに固くとどめることが吉。
「日々に輿衛を閑う」は、車(輿)の扱い・護衛(衛)=運用と護持の稽古を日々怠らぬ意で、攻守両面の常習訓練を説きます。
ここまでを経て初めて、「往く攸あるに利ろし」――進むべき処に進んでよいと開かれます。
象伝は「上志を合わす」とし、上(長上・師・大義)と志を合わせるゆえに、進むべき所に利があると解します。独断専行ではなく、上意・大義との合致が鍵です。
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◆ 含まれる教え
- 実力は充ちつつあるが、なお鍛錬と自省を重ねてこそ吉。
- 攻(進取)と守(維持・警護)を日々の稽古で両立させること。
- 進むなら、上志(長上・師・大義)と志を合わせて進むべし。
- 性急を戒め、艱貞=難きを耐え正しきを守る姿勢が通達を開く。
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◆ 仕事
この爻を得た時、仕事運は実力充実+最終仕上げ期。
日頃の蘊蓄・成果が上位者に認められやすく、抜擢や昇給の兆しがあります。
ただし、なお一度自省し、訓練・体制整備(輿衛)を徹底してから進むのが最善。
事業では、先輩・長上・出資者から共同の打診を受ける相。
「上志を合わす」ように、上の方針に則り、役割分担を明確にすれば吉。
準備と守りの運用(リスク管理・管理会計・オペ手順)を日々習熟すれば、進出先・案件に利があります。
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◆ 恋愛
日常の立ち振る舞い・修養が評価され、良縁の紹介・媒介が得られる相。
我を張らず、周囲の良き手引きに従って進めばまとまりやすい。
拙速は禁物で、礼節・手順(挨拶や段取り)を整え、段階を踏んで前に進むと吉。
(動けば変じて山沢損となり、余分を削ぎ整えることが縁を固める示唆があります。)
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◆ 山天大畜(三爻)が教えてくれる生き方
良馬を追い、日々に輿衛を習う――
それは、才能を走らせるだけでなく、制御し守る術を同時に磨くということ。
進むべき気が満ちていても、艱貞を貫き、
上志に合して時を得たなら、はじめて「往く攸」に利が生まれます。
焦らず、鍛え、備える。
走る力と、止める知恵を兼ね備えた時、道は自然に開ける――
これが大畜・三爻の要諦です。

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