梅雨時に輝く伝統の神社祭典3選(2025年6月第3週)

神社祭典暦

じめじめとした梅雨の季節にも、日本各地では歴史と伝承に彩られた由緒ある神社の祭典が盛大に執り行われます。今年(2025年)も、6月16日から22日にかけて、東日本・中部・西日本の各地で地域独特の文化や特色を持つ神社のお祭りが開催されます。今回は地域の偏りが出ないよう東・中・西日本から1件ずつ、 北海道札幌市「北海道神宮例祭(札幌まつり)」、三重県志摩市「伊雑宮御田植祭」、兵庫県姫路市「長壁神社(姫路)ゆかた祭り」 の3つをご紹介します。それぞれの神社が祀る神様の御神徳(ご利益)や祭典の歴史・特色、伝承に触れながら、その魅力を紐解いてみましょう。

1、北海道神宮例祭(札幌まつり) – 北海道神宮(北海道札幌市)

•祭典名と日程: 北海道神宮例祭(札幌まつり)。毎年6月14日~16日に開催され、2025年は6月14日(土)~16日(月)に行われます。特に6月16日にクライマックスの神輿渡御(みこしとぎょ)が執り行われます。

•御祭神と御神徳: 北海道神宮には、開拓三神(大国魂神・大那牟遲神・少彦名神)と明治天皇が祀られています 。これらの神々は北海道開拓の守護神とされ、その御神徳は金運上昇、商売繁盛、縁結び、家内安全など多岐にわたります 。北海道屈指のパワースポットとしても知られ、願わぬご利益はないともいわれるほどです。

•所在地: 北海道札幌市中央区宮ヶ丘 ※最寄り駅:地下鉄東西線「円山公園駅」から徒歩約15分

祭典の歴史・特色・伝承: 北海道神宮例祭は、札幌が開拓された明治時代に始まった祭典で、100年以上の歴史を誇り市民に「札幌まつり」の名で親しまれてきました。明治2年(1869年)に開拓使により札幌神社(のちの北海道神宮)が創建され、当初より国家の発展と北海道開拓の成功を祈る重要なお祭りとして位置づけられました。祭典は毎年6月中旬の3日間にわたり盛大に繰り広げられ、なかでも6月16日の神輿渡御は最大の見どころです。色とりどりの平安装束に身を包んだ総勢1000人以上の人々が、北海道神宮の御神体を奉じた4基の神輿を中心に8基の山車とともに市内23kmの道のりを練り歩きます。札幌中心部・大通公園では神輿と山車の華麗な巡行披露も行われ、江戸時代の祭礼行列が現代に甦ったかのような壮観な光景に、沿道は多くの見物客で賑わいます。一方、神社の境内では伝統的な奉納行事(神楽や太鼓の奉納など)が執り行われ、出店も軒を連ねて祭りを盛り上げます。さらに市内の中島公園一帯にも露店が立ち並び、お化け屋敷など昔ながらの縁日小屋も登場して、札幌の初夏の夜を彩ります。明治から令和へと時代が移ろうとも、北海道神宮例祭は札幌の発展と市民の幸せを祈る祭典として受け継がれ、北海道の大地に息づく開拓者魂を今に伝える伝統行事となっています。地域の人々に愛されるこのお祭りは、厳かな神事と庶民的な夏祭りのにぎわいが融合した、北海道らしい開放的でスケールの大きな祭典です。

参考リンク: 北海道神宮例祭(札幌まつり) – 札幌市公式観光サイト (ようこそさっぽろ)

2、伊雑宮御田植祭(磯部の御神田) – 伊雑宮(いざわのみや、三重県志摩市)

•祭典名と日程: 伊雑宮(いざわのみや)御田植祭。通称「磯部の御神田(おみた)」と呼ばれる稲作儀礼で、毎年6月24日に斎行されます。2025年も**6月24日(火)**に開催予定です。早朝から神事が始まり、午後には田植えの神事、夕方には締めくくりの神事が行われます。

•御祭神と御神徳: 伊雑宮は伊勢神宮・内宮(皇大神宮)に属する別宮で、天照大御神の御霊が祀られているとされています(内宮の分霊と伝わる。その御神徳は国家安泰・五穀豊穣・大漁満足など、天照大神に通じる太陽神の恵みによる農耕や産業の繁栄、海の幸の豊かさに及ぶといわれます。実際、神話では当地が伊勢神宮への御贄(みにえ)=貢納する食糧を産出する土地「御贄地」と定められたことから、農漁業の神として篤く信仰されています。

•所在地: 三重県志摩市磯部町上之郷(伊雑宮境内および御料田) ※近鉄志摩線「上之郷駅」下車徒歩約5分

祭典の歴史・特色・伝承: 伊雑宮御田植祭は2000年もの昔から伝わるともいわれる由緒正しい神事で、日本三大御田植祭の一つにも数えられています(他の二つは千葉県の香取神宮、大阪府の住吉大社)。その起源には次のような伝説があります。今から約2000年前、第11代垂仁天皇の皇女である倭姫命(やまとひめのみこと)が天照大神を祀る地(伊勢神宮)を求めて各地を巡行していた折、この志摩の地に差し掛かりました。海産物の豊かな志摩は伊勢神宮に供える食材を調達する「御贄地」に相応しいと考えられましたが、その時、一羽の真名鶴(まなづる、丹頂鶴)が空から稲穂をくわえて落としました。倭姫命は「物言わぬ鳥ですら神に捧げる物を示した」と感動し、その稲穂の種でもって伊勢神宮に供える米を作らせたと伝えられています。この伝承に基づき、志摩地方では古来より稲作が神事として行われ、米作りを通じて神への感謝と祈りを捧げてきました。御田植祭はその象徴であり、中世以降は毎年6月24日に執り行われて現在に受け継がれています。

祭典当日、伊雑宮に隣接する御料田(神田)では、早乙女(さおとめ)姿の地元女性たちが伝統装束に身を包み優雅な田植えの所作を披露します。一方、男性たちは田植えの合間に**「早苗踊り」と呼ばれる郷土色豊かな踊りを繰り広げ、太鼓や笛の音に合わせて田んぼを賑やかに練り歩きます。田植えが終盤に差し掛かると、クライマックスとして「竹取神事(たけとりしんじ)」が行われます。これは大うちわを飾り付けた長竹を田んぼの中央に立て、合図とともに裸男たちが一斉にその竹めがけて突進し、争奪戦を繰り広げる勇壮な神事です。泥まみれになった男衆が激しくもみ合いながら竹を奪い合う様子は迫力満点で、飛び散る泥しぶきに観客から歓声が上がります。勝ち取った竹やうちわの破片は御利益のあるお守りとして持ち帰られ、豊作や大漁、無病息災をもたらす縁起物とされています。夕刻、神職と早乙女たちが社に戻り、五穀豊穣を祈念する神楽舞が奉納されると祭りは終了します。全体を通して、荘厳さと豪快さが入り交じるこの御田植祭は、「大地の鼓動が聞こえる」**とも形容されるダイナミックな農耕儀礼であり、初夏の志摩に神と人と自然が一体となる神秘的な光景を現出させます。地域住民にとっては誇り高い伝統行事であり、田植えに込められた祈りは現代においてもなお地域の絆を強め、神への感謝と自然への畏敬を次世代へと伝える貴重な機会となっています。

参考リンク: 伊雑宮御田植祭 – 伊勢志摩観光ナビ(公式サイト) (イベント情報ページ)

3、長壁神社 姫路ゆかた祭り – 長壁神社(おさかべじんじゃ、兵庫県姫路市)

•祭典名と日程: 姫路ゆかた祭り(長壁神社例祭)。毎年6月22日を中心日程として開催されており、**2025年は6月21日(土)・22日(日)**の2日間にわたり行われます 。夕方から夜にかけて城下町一帯で多彩な催しが実施され、日没後まで浴衣姿の人々で賑わいます。

•御祭神と御神徳: 長壁神社に祀られるのは、光仁天皇の皇子である刑部親王(おさかべしんのう)と、その王女の富姫(とみひめ)です。古来、姫路城の守護神として火災鎮護・災難除けに霊験あらたかな神様とされ、人々の厚い信仰を集めてきました 。また一説には、父娘二柱の神を祀ることから家内安全や縁結びのご利益もあるとも伝えられます(長壁神社を巡拝すると願いが叶う「縁結び三社巡り」の風習も地元にあります)。

•所在地: 兵庫県姫路市立町(長壁神社境内および姫路城南公園周辺) ※JR「姫路駅」より北東へ徒歩約15分

祭典の歴史・特色・伝承: 姫路ゆかた祭りは江戸中期の宝暦年間(18世紀中頃)に始まったとされ、その由来には姫路藩主・榊原政岑(さかきばら まさみね)公の逸話が伝わります。榊原政岑は城下町の発展に力を入れた人物ですが、享保年間に放漫な財政運営を幕府に咎められ、ついに延享2年(1745年)に姫路から越後高田へ転封(国替え)を命じられてしまいます。城を去るにあたり政岑公は、姫路城内に祀られていた長壁神社を庶民も参拝しやすい城下の長源寺境内へと遷座し、その遷座祭を自ら執り行いました。時は夏至の日の6月22日、急な祭の開催に町人たちは正装(式服)の用意が間に合わず参列を躊躇しましたが、政岑公は**「浴衣姿での参列」を特別に許可したといいます。これが人々にとって画期的な出来事となり、以後「浴衣でお参りする祭」として毎年6月22日の例祭に浴衣を着る風習が根付きました。この故事が「ゆかたまつり」の起源とされています。当時、浴衣は本来肌着に類する簡素な服であり、江戸時代の常識ではそれで外出するのははしたない行為でした。しかし政岑公の寛容な計らいが人々の心を打ち、庶民の間で夏祭りに浴衣を着る習慣が広まったとも伝えられます。なお史実では政岑公自身は6月22日の祭の半年前に姫路を離れており、このエピソードは後世に付会された可能性も指摘されていますが 、いずれにせよ「浴衣で参加する祭り」**というユニークな伝統を生み出したことは確かです。

この由緒あるゆかた祭りは、戦後になってから長壁神社の例祭(毎年6月22日)として正式に復活・定着し、今日では姫路市を代表する初夏の風物詩となっています。祭り期間中、城下町の中心部(長壁神社から城南公園一帯)は歩行者天国となり、老若男女が思い思いの浴衣姿でそぞろ歩きを楽しみます。夕刻には地元の小学生らによる子ども浴衣パレードが姫路城下を練り歩き、祭りの幕開けを告げます。城南公園の特設ステージでは郷土芸能や音楽演奏など多彩なイベントが催され、夜には提灯やぼんぼりに明かりが灯って情緒たっぷりの夜祭りへと移行します。約250店にも及ぶ露店が軒を連ね、金魚すくいや飲食物の屋台で賑わう光景は昔懐かしい夏祭りそのものです。近年では浴衣着用者への特典サービスも用意され、観光客にも浴衣での来場が呼びかけられています。こうした取り組みもあり、期間中は毎年約15万人もの人出で大いに賑わいます。もともと姫路ゆかた祭りは、酷暑の折に格式張らず涼やかな浴衣姿で神様にお参りできる粋な祭りとして始まりました。現代でもその心意気は息づき、人々は思い思いの浴衣に身を包んで初夏の夕べを過ごし、城下町の情緒と伝統文化を肌で感じる祭典となっています。歴史ある城下町・姫路ならではの風雅な祭りとして、今後も末永く受け継がれてゆくことでしょう。

参考リンク: 姫路ゆかた祭り – 姫路市観光コンベンションビューロー公式サイト (イベント案内ページ)

以上、2025年6月第3週前後に全国で開催される伝統的な神社祭典を東日本・中部・西日本から各1件ずつご紹介しました。それぞれの祭りは、その土地の歴史や文化と深く結びつき、地元の人々に愛され育まれてきたものです。梅雨空を吹き飛ばすような熱気と活気に満ちた祭典の数々は、日本各地の神々への信仰と感謝、そして地域の誇りを今に伝える貴重な機会でもあります。機会がありましたらぜひ現地に足を運び、神社の祭りならではの荘厳さと躍動感を体感してみてください。それぞれの土地で受け継がれる伝統行事に触れることで、日本の多様な文化の奥深さと魅力を改めて感じられることでしょう。各祭典の詳細は公式サイト等でも案内されていますので、訪問計画の際には最新情報を確認し、安全に配慮してお楽しみください。梅雨の季節、傘の花と浴衣の花が咲き誇る日本の神社祭り巡りは、きっと心に残る旅の思い出となるはずです。

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