2025年3月も下旬に差し掛かり、世界各地では春の訪れを祝う伝統的なお祭りが開催されます。この週(3月24日〜3月30日)には、国際的に有名なものから地域色豊かでユニークなものまで、様々な祭典が行われます。今回はその中から、日本以外の国で開催される3つの伝統的な祭典をご紹介します。
1、ウガディ(Ugadi)
• 祭典日:2025年3月30日(予定)
• 開催地:インド(アーンドラプラデーシュ州、テランガーナ州、カルナータカ州 など)
歴史と特色:ウガディはヒンドゥー暦にもとづく新年祭で、南インドの主にテルグ語圏やカンナダ語圏で盛大に祝われます 。ウガディの日はヒンドゥー暦のチャイトラ月(グレゴリオ暦の3月〜4月頃)の最初の日にあたり、新しい暦サイクルと春の訪れを告げる日です 。伝統的に、この日は創造神ブラフマーが宇宙を創り出した日ともされ、朝には沐浴(油を塗って体を清める儀式)を行い、新しい衣服に着替えて寺院に参拝します 。家の玄関先には色鮮やかなランゴリ(コーラム)と呼ばれる幾何学模様の飾りが描かれ、戸口にはマンゴーの葉の飾りを掛けて新年を迎えます 。また特筆すべき料理に「ウガディ・パチャディ」と呼ばれるチャツネ(ペースト状のソース)があり、タマリンド(酸味)、ニームの花(苦味)、ジャガリー(粗製糖の甘味)、塩(塩味)、トウガラシ(辛味)、生のマンゴー(渋み)といった6つの味を混ぜ合わせて作られます 。この六味は新年に経験しうる人生の様々な喜怒哀楽を象徴しており、一口ごとに苦味(ニーム)が多ければ「一年の苦難」を、甘味(ジャガリー)が多ければ「一年の甘い喜び」を示すとも言われています 。ウガディは古くからヒンドゥー教徒にとって重要な祭日で、中世の記録にもこの日に寺院への多額の奉納が行われたことが記されています 。同じ日にはマハラシュトラ州などで「グudiパドワ(グディー・パードゥワー)」という新年祭も行われ、サリーを纏った飾り棒に壺を載せて旗のように立てる独自の風習があります 。いずれも春の再生と繁栄を願う新年の祭典として、人々は家族揃って祝いの食事を楽しみ、新年の運勢が読み上げられる暦の朗読(パンチャンガ)を聞くなどして過ごします 。
• 参考:バンガロール都市県公式サイト(ウガディの解説)
2、ニュピ(Nyepi)
• 祭典日:2025年3月29日(サカ暦 新年)
• 開催地:インドネシア(バリ島)
歴史と特色:ニュピはバリ・ヒンドゥーの伝統にもとづくサカ暦の新年にあたる祭典で、「沈黙の日」とも呼ばれます 。バリ島では新年のこの日、朝6時から翌朝6時までの24時間にわたり島全体が静寂に包まれます。外出・労働・娯楽・灯火といった一切の活動が禁止され、空港も閉鎖されるほど徹底した静寂と休息の日となります 。島民は各自の家で瞑想や断食を行い、自らを省みる時間を過ごします。この厳粛な風習は、喧騒を断つことで悪霊を惑わし島から追い払うとともに、内面の平衡と調和を取り戻すためのものだとされています 。ニュピの前日までには入念な準備が行われます。数日前にはメラスティという儀式があり、村ごとに聖なる寺院の神像を海岸へ運び出し、海水で清めることで大地と人々の穢れを浄化します 。前夜にはオゴオゴ(Ogoh-ogoh)と呼ばれる巨大な鬼や悪霊の人形を若者たちが担いで練り歩く「ヌグルプックのパレード」が開催されます 。
このオゴオゴは悪霊そのものを象徴しており、賑やかな音楽や花火とともに行進することで邪悪な精霊を怖れさせ追い払うのです 。こうした勇壮な前夜祭の後、明けたニュピ当日は一転して静寂が守られ、島中が「無」の状態になることで悪霊が居場所を見失い島を去ると信じられています。翌日には日常生活が再開され、人々は親戚や友人を訪ね歩いてお互いに許し合い、新年を迎えた喜びを分かち合います 。バリ島特有のこのニュピは、観光客にとっても貴重な体験となっており、「雑踏から離れて内省する一日」として毎年世界中から関心を集めています。
• 参考:バリ島政府観光局(Nyepiに関する案内)
3、ゴデ・ジャトラ(Ghode Jatra)
• 祭典日:2025年3月29日(予定)
• 開催地:ネパール(カトマンズ盆地の地域のみ)
歴史と特色:ゴデ・ジャトラはネパールの首都カトマンズに古くから伝わる「馬の祭り」です (現地語で“Ghode”は馬、“Jatra”は祭りの意味)。毎年春(ヒンドゥー暦チャイトラ月の新月の日)に開催され、カトマンズの中心にある大広場ツンディケル(Tundikhel)で盛大な馬のパレードと競技会が行われます 。この祭典は、その昔カトマンズの人々を悩ませていた伝説の鬼神「トゥンディ」を打ち負かしたことに由来します。伝承によれば、人々は退治した悪鬼トゥンディの亡骸の上を馬で何度も駆け回り、鬼の復活を封じようと祝い踊ったとされます。それ以来、毎年春になると馬を走らせて悪霊を踏み固める風習が生まれたと伝えられています 。現在の祭典では、ネパール陸軍が主催して軍の騎兵隊による曲乗りや障害飛越競技、火の輪くぐりなどスリリングな曲芸が披露されます 。ツンディケルの会場には各地域の守護神像を乗せた山車も繰り出し、市民は伝統衣装をまとって観覧します 。またカトマンズ盆地にある古都パタンでは、同じ日に酔った馬に人が乗り速さを競うユニークな行事も催され、こちらも大いに盛り上がります 。ゴデ・ジャトラ当日はカトマンズ盆地のみ公休日となり、首都の人々にとって春の一大イベントとなっています 。
赤い軍服に身を包んだ騎兵たちが誇らしげに馬を操る姿や、観衆の目前で繰り広げられる勇壮な馬術ショーは圧巻で、悪霊払いの伝承を今に伝える伝統行事として国内外の観光客の目を引きます。普段は雑踏で賑わうカトマンズですが、この日ばかりは馬の蹄の音と観衆の歓声が街に響き渡り、春の訪れを祝う活気に満ちあふれます。
• 参考:ネパール政府観光局・ニュースリリース(Ghode Jatraの様子)
今年の春も、それぞれの土地で培われてきた伝統の祭典が人々に笑顔と活力をもたらしてくれることでしょう。異なる文化圏で繰り広げられるお祭りの背景に触れることで、世界の多様な春の祝い方を感じてみてください。どの祭典も、新しい季節と新年への希望を胸に、それぞれの文化の色彩豊かな物語を伝え続けています。
コメント