周易64卦384爻占断
375、水火既済(すいかきせい)3爻
◇ 水火既済とは何か?
水火既済(すいかきせい)は、上が水(坎)/下が火(離)の卦です。
火は上へ、水は下へ向かう性質を持ちますが、この卦ではそれが噛み合って、いったん「事が成り、整った」状態を示します。
ただし既に整っているからこそ、ここから先は前へ押し出すより、止まって保つことが肝心になります。完成のあとの一手が、吉凶を分ける卦です。
◆ 卦全体が教えてくれること
既済が伝える中心は、「安定して整っている時ほど、動き過ぎは危ない」という現実感です。
小さな不満や停滞が見えても、力ずくで押し切ったり、大きく手を入れたりすると、均衡が崩れて問題が増えやすい。必要なのは、全体を守りながら“ほどよい調整”に留めること。安泰の中の油断、あるいは倦みから来る無用の一手を戒め、静かに現状を持ちこたえる強さを教えています。
◆ 三爻の爻辞と象伝
【爻辞(こうじ)】
「高宗(こうそう)鬼方(きほう)を伐(う)つ。三年(さんねん)にしてこれに克(か)つ。小人(しょうじん)は用(もち)うるなかれ。」
【象伝(しょうでん)】
「三年(さんねん)にしてこれに克(か)つは、憊(つかる)るなり。」
● 解釈
三爻は、内側の区切りに立ち、既済の「安定」がいったん頂点に届く位置です。ところが同時に、火(離)の性質が強く出やすく、安泰に慣れた心が“刺激”や“変化”を欲しがる場面でもあります。そこで爻辞は、高宗が遠い鬼方を討つという歴史の形を借りて、「わざわざ大きなことを起こして局面を動かす」姿を映します。
しかし、勝つまでに三年かかる。ここが急所です。勝利そのものより、そこへ至る道のりが長く、国(組織)も人心も擦り減り、整っていたはずの基盤が疲弊してしまう。象伝が「憊る」と言い切るのは、まさにその点で、成果を得ても“代償”が重く、結局は別の乱れの芽を残しやすい、という読みです。既済の時に怖いのは、困っていないのに大きく動いて、余計な負担を背負い込むことです。三爻は、その落とし穴を強く示します。
だから続けて「小人は用うるなかれ」と戒めます。ここでいう小人は、軽い功名心で煽ったり、目先の利益に飛びつかせたり、秩序より手柄を優先させる者の象です。長期戦・大仕事ほど、こうした人材が混じると統制が乱れ、内側から崩れやすい。つまり三爻は、「大きく動かねばならぬ事情があるなら、なおさら人選と節度を厳しくせよ。そもそも、無用な戦を起こして安定を壊すな」という二重の警告になっています。
要するにこの爻は、安泰の真ん中で心が倦み、外へ打って出たくなる時に、あえて足を止めて安定を守れと告げます。勝っても疲れが残る戦いなら、最初から起こさない。起こすなら、軽薄な勢いを排し、長い目で見た秩序を守る――それが三爻の要点です。
◆ 含まれる教え
- 安泰の頂で“変化を欲する心”が起きやすい時ほど戒めが要る
- 大きな手出しは、たとえ勝っても消耗が残りやすい
- 長期戦の勝利は、疲弊と引き換えになりやすい
- 目先で煽る人を用いると、内側が乱れて既済が崩れる
- いまは現状を守り、余計な野心を抑えるほど安泰が続く
◆ 仕事
仕事では、派手な改革や無理な拡張より、整った流れを守ることが大切になります。
- 大きな案件を力押しで進めるほど、長期化して消耗が増えやすい
- 予定通りに進まない“手間取り”が出やすく、疲れから判断が荒くなりがち
- 協力者や部下選びで見誤ると、後から統制が利かず傷が深くなる
- 新規や背伸びは不利。旧来の土台を守り、やる範囲を絞るのが得策
- 勝っても収支が釣り合わない形になりやすいので、最初の見立てを厳しくする
◆ 恋愛
恋愛では、関係を動かすために“わざと大きく揺さぶる”ほど裏目に出やすい時です。
- 退屈や不安を埋めるために強い刺激を求めると、後から疲弊と不信が残りやすい
- 急いで押し切ろうとするほど、長引く揉め事になりやすく、結局どちらも消耗する
- 周囲の軽い助言や煽りに乗ると、安定していた関係が乱れやすい(小人の象)
- 「勝ちたい」「証明したい」気持ちが強いほど、言葉が尖って破綻を招きやすい
- いまは関係を大きく動かすより、日々の信頼を整えて“現状を保つ”ほうが安定する
◆ 水火既済(三爻)が教えてくれる生き方
三爻が教えるのは、安泰の頂でこそ欲を抑え、無用の変化を起こさないという知恵です。
大きく仕掛ければ、勝つことはあっても、その過程で人も心も疲れ、整っていたものが別の形で崩れていく。だから、いまは勝利よりも安定と均衡を守り、軽薄な勢いに舵を預けず、静かに足場を固める。
「三年にして克つは憊るなり」――この一言は、勝った後に残る疲れまで見通して、既済の道を外すなと告げています。

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