周易64卦384爻占断
348、兌為沢(だいたく)上爻
◇ 兌為沢とは何か?
兌為沢(だいたく)は、「兌(よろこび)」が重なる卦です。
人の心をほぐし、言葉や態度のやわらかさによって、場の空気を和らげ、交流を促進します。
ただし悦びは、行き過ぎると軽さや甘さに傾きやすく、そこから道を外す危うさも含みます。
この卦は、悦びを“徳”として活かすには、分別と節度、慎みが必要なことを示します。
◆ 卦全体が教えてくれること
兌の悦びは、単なる享楽ではなく、人を立て、和を保ち、物事を円滑に進めるための力にもなります。
その一方で、悦びを求める気持ちが先走ると、巧言・迎合・付和雷同に流れ、信を損ないやすい。
だから兌為沢は、悦びを明るく保ちながらも、「押し出さない」「控え目に悦びを表現する」態度が吉を長くする、と教えています。
◆ 上爻の爻辞と象伝
【爻辞】
「引(ひ)かれて兌(よろこ)ぶ。」
【象伝】
「上六(じょうりく)引(ひ)かれて兌(よろこ)ぶは、いまだ光(おお)いならざるなり。」
● 解釈
上爻は、卦の終極にあたり、兌の貞正にして吉で終える道を示しています。
ここでの要点は、悦びが「自分から取りに行くもの」ではなく、流れや縁に“引かれて”生じる悦びとして描かれている点です。
「引かれて兌ぶ」とは、相手を言葉で動かしたり、先に仕掛けて悦びを求めるのではなく、
相手の求めや状況の要請に応じて、後から自然に悦びが立つという姿です。
兌の卦には、甘言や愛想で人を引き寄せる危うさもありますが、この上爻はむしろそれを避け、
自分の悦びを前面に出さないことで、悦びを正しい形に保つことを示します。
象伝の「いまだ光いならざるなり」は誇大に悦びを表現しない、その控えめさを言い切っています。
ここでいう「光い」は、輝かしいという美点であると同時に、目立ち過ぎ・誇示・派手な喜びにも通じます。
上爻の悦びは、そのように悦び誇るものではなく、表立って誇らず、過度に盛り上がらず、静かにまとまる悦びです。
悦びを大げさに演出しないからこそ、人の妨害を招きにくく、禍の芽も育ちにくい――その理屈がここにあります。
また、この上爻は、注意深い歩みを要する局面です。
悦びが極まるほど、気が緩みやすく、つい踏み込み過ぎてしまう。
だからこそ、ここでは「先頭に立って悦びを求める」よりも、
人に後れて従い、分を守り、満ち切る前の七八分目で止まる態度が必要になります。
◆ 含まれる教え
- 悦びは、自分から取りに行くと甘さや迎合に傾きやすく、虎の尾を踏む危険を招く。
- 「引き立てられて悦ぶ」くらいの受け身の姿勢が、この爻の正道。
- 目立つ喜び、誇る喜びは、かえって危うさを招く。
- 充分の満足を求めず、七八分で収める用心が要る。
◆ 仕事
仕事では、先頭に立って主導するより、求められた役割を過不足なく果たすことが吉につながります。
- 自説を押し通すより、相手の言い分を立てて整える
- 手柄の獲得を前面に出して動くより、成果を静かに収める
- 目立つより、補佐・調整・受け役でまとめる
この「引かれて動く」態度が、上爻の示す吉の形です。
前へ出過ぎると行き過ぎが生じやすいので、引き際と節度が鍵になります。
◆ 恋愛
恋愛では、追いかけて勝ち取るよりも、相手からの求めに応じて関係が進むほうが整いやすい爻です。
ただし、受け身が「流される」に変わると、違和感を見逃しやすい。
- 嬉しさだけで決めず、相手の誠実さを確かめる
- 気分の高まりで深追いしない
- “やさしい言葉”の多さより、行いの一貫性を重く見る
控えめさを保ちつつ、必要な確認は怠らないことが大切です。
◆ 兌為沢・上爻が教えてくれる生き方
この爻が示す悦びの完成形は、派手さではなく、品のある節度です。
自分が進んで悦びを求めて行くより、引き立てられたら分を守って応じ、悦びをひけらかさずに収める。
その控えめさが、悦びを徳として長く保たせ、危うさを遠ざけます。
上爻は、兌の悦びを「静かに慎ましく結ぶ」ことで、吉を守る道を示しています。

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