周易64卦384爻占断
335、火山旅(かざんりょ)5爻
◇ 火山旅とは何か?
火山旅(かざんりょ)は、山(艮)の上にある火(離)のが止まることなく燃え移ってゆく卦です。
旅とは、根を張って安住するのではなく、仮の場所に身を置きながら進退する状態を言います。だからこの卦は、勢いで押し切るよりも、居場所・持ち物・人の助けを重視し、分を守って身を保つことを重んじます。
◆ 卦全体が教えてくれること
旅の時は、環境も人間関係も流動的で、思い通りにならないことが増えます。
ここで大切なのは、功を急いで大きな成果を取りに行くことではなく、足場を崩さない歩き方です。離(火)は周囲を焼き払って進みやすく、艮(山)は止まります。つまり旅では、動きたい心が先走りやすい反面、止まるべき時に止まらねばならない。
その節度こそが、旅の吉凶を分けます。
◆ 五爻の爻辞と象伝
【爻辞】
「雉(きじ)を射(い)て一矢(いっし)亡(うしな)う。終(つい)にもって誉命(よめい)あり。」
【象伝】
「終(つい)にもって誉命(よめい)あるは、上(かみ)逮(およ)ぶなり。」
● 解釈
五爻は、旅の中でもっとも“ほどよい身の処し方”が可能なところです。
強さでねじ伏せるのではなく、穏和に柔らかく振る舞い、倫理や筋を外さずに目的を達成する――その気配があります。
「雉を射る」は、狙いが定まり、得たい成果をきちんと取りに行けることを表します。けれど同時に「一矢を亡う」とある。ここは、ただの損失を言うのではありません。
何かを得るために、何かを差し出す。あるいは、目的を達成するために、これまで使用してきたもの(やり方・人脈・資金・面子など)を、ひとつ捨てる場面が出る――そういう含みです。
旅は、剛を張って強硬策で相手に勝つより、文明(穏和・礼儀・知略)によって対処するす方が合います。だからこの爻は、力押しを手放し、穏やかな方法へ切り替えることで、むしろ良い成果を得やすい。
そして「終にもって誉命あり」は、最初から華々しく称えられるというより、最後に評価がついてくるという言い方です。ここが大切です。
象伝の「上逮ぶなり」は、誉命が“自分で言い立てる名声”ではなく、上から届く評価・推挙・任命のような形で現れやすいことを示します。つまり、見せびらかして得る誉れではなく、節度と誠を守った結果として、上に認められる誉れです。
◆ 含まれる教え
- 目的は達成できるが、同時に代償として何かを差し出す覚悟が必要。
- 強硬策よりも、礼と穏和をもって進めた方が通りやすい。
- 誉れは先に求めず、筋を守って全体の成果を重視すると、最後に高い評価を得る。
- “代償を惜しんで中途半端”では成果が出ない。
◆ 仕事
仕事では、狙いの成果を取る力はあります。ただし、取るために「矢」を一本失う。
これは、たとえば――
- 時間・労力を多めに払う
- 利益や条件を一部譲る
- これまでのやり方を捨てる
- 面子に拘らずに、全体にとって良い形でその場を収める
といった形で現れやすいでしょう。
五爻の要は、強く出ないことです。強硬に押すと旅は崩れます。
誠意を明らかにし、譲るところは譲り、段取りと文書で整える。そうすると、周囲や上位者から「任せられる」「認められる」という形で、誉命が後からついてきます。
得たものを追い過ぎると旅は不安定になりますから、成果が出た時ほど、守りと撤退線を先に決めるのが上策です。
◆ 恋愛
恋愛では、まとまる方向はありますが、すんなり一直線とは限りません。
「一矢を亡う」は、恋愛では特に、
- 意地を張らない
- 先に一歩引く
- 相手の都合を立てる
- 期待や不安を飲み込み、波風を立てない
といった小さな譲歩として出てきます。
ただ、それを“負け”と捉えると苦しくなります。旅の五爻は、譲った分だけ関係の筋が整い、結果として「この人は信じられる」と評価されることになります。象伝の「上逮ぶ」は、恋愛でも、周囲の理解が得られる、正式な形へ進みやすい、といった後押しとして働きます。
強く迫るより、穏やかに誠を積む方が、最後に実りを残します。
◆ 火山旅・五爻が教えてくれる生き方
旅の時には、力で圧倒しようとすると危うくなります。
目的を達成するには、必要な代償を払い、強行策を捨て、穏和な手法と知略を用いる。そうすれば、最終的に誉れを得ることができる。
「雉を射て一矢亡う」は、損失を嘆く言葉ではなく、“成果物を得るために捨てるべきものを見定めよ”という教えです。これができる人に、最後の誉命が訪れます。

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