周易64卦384爻占断
310、艮為山(ごんいざん)4爻
◇ 艮とは何か?
艮為山(ごんいさん)は、山のようにどっしりと動かず、「止まるべきところに止まる」ことで道を外さない時を表す卦です。艮の止(とど)まるは、ただ動かないという意味ではありません。外からの誘い、内からの衝動、そのどちらにも引きずられず、分を守って身を整え、乱れの芽を早く鎮める働きを含みます。止まることによって、かえって心の筋が通り、後の展開に備えられる――これが艮の徳です。
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◆ 卦全体が教えてくれること
艮の卦が教えるのは、「動くことが正しい場面」と「止まることが正しい場面」を取り違えない、ということです。動けば成果が出そうに見えても、実際には支障が増え、後悔の種が残ることがあります。そのような時は、あれこれ外へ働きかけるより、内を整え、言葉も欲も胸に収めて、道を守る方が咎を免れます。艮は、節度をもって自分を律し、過ちを未然に防ぐ道筋を示します。
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◆ 四爻の爻辞と象伝
【爻辞】
「その身(み)に艮(とど)まる。咎(とが)なし。」
【象伝】
「その身(み)に艮(とど)まるとは、これを躬(み)に止(とど)むるなり。」
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● 解釈
四爻の「その身に艮まる」は、止まる対象が「趾(あし)」「腓(こむら)」「限(こし)」と段階を上がってきた流れの中で、いよいよ“身”そのものに及ぶことを示します。ここでいう「身」は、外へ向かって動きたがる欲や意見の中心です。その中心を動かさず、外へ出さない。これが四爻の骨子です。
象伝の「これを躬に止むる」は、止めるべき対象を外に向けて相手を押さえこむのではなく、自分の内で引き受けて、外へ漏らさないという意味合いになります。言いたいことがあっても、正したいことがあっても、まずは身の内にとどめる。そうすることで、余計な摩擦や禍根を増やさずに済みます。
また、四爻は五爻に近い位置ですから、本来なら「外に働きかけて形を整える」方向へ気持ちが動きやすいところです。しかし、この爻は陰柔であり、強く押し出して功を立てるより、身を慎み、過ちの芽を封じる必要があります。したがって、華々しい成果は見えにくくとも、「咎なし」と言える落ち着きが得られます。欲しいものを取りに行くのではなく、欲そのものを鎮め、外へ動かさないことが、この爻の正しい止まり方です。
この四爻は、何かを決めに行く・動かしに行くよりも、まず自分の内側を整え、言葉や衝動を胸に収めて守ることが利しい、と示しています。動けば通りそうに見える局面ほど、止まって内を固める方が、結果として咎を避けやすいのです。
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◆ 含まれる教え
- 言うべきことがあっても、外へ出す前にまず身の内に収めることが肝要
- 動いて状況を改善するより、動かずに乱れの芽を封じる方がよい時
- 欲しい結果を取りに行くより、欲を静めて分を守ることで咎を免れる
- 功を急がず、過ちを起こさないことを第一に据えるべき局面
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◆ 仕事
仕事では、改善したい点や正したい点が見えやすくなり、「今ここで言えば通る」「動けば変えられる」と感じる場面が出やすい時です。しかし四爻は、正しさを外に掲げて動かすよりも、まず自分の身に止め、波風を立てない方がよいと告げます。言葉が立つほど、相手の面子や対立の構図が生まれ、筋の良い提案でも通りにくくなりがちです。
このため、方針としては、現状の枠内で「整える努力」を重ね、外向きの大きな変更や新規の打ち手は控えるのが無難です。新しい企画、拡張、急な方針転換は、いったん見合わせておく方がよいでしょう。進言や指摘をするにしても、今すぐ外へ出すより、材料を揃え、時機を選んで静かに出す――その節度が、結果として信用と安全を守ります。守りの姿勢は消極に見えても、内側をしっかりと整えることで、次に動く時の足場が固くなります。
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◆ 恋愛
恋愛では、相手の言動に対して言いたくなることが増えたり、関係の方向をはっきりさせたくなったりしやすい時です。けれども四爻は、気持ちを外へ押し出して結論を迫るより、まず心を鎮め、身に止めることを重視します。言葉が先走ると、相手を責める形になったり、誤解を呼んだりして、二人の関係が冷え込む恐れがあります。
ここは、相手を動かすより、自分の内側を整える方が利しい局面です。不安や焦りがあるなら、それを材料にして状況を見直し、言うべきことは言うとしても、順序と時機を選ぶ。短い言葉で決着をつけに行かず、落ち着いた距離感で保つことが「咎なし」につながります。縁談に当てるなら、急いでまとめに行くより、見合わせて無事を取る、という判断が必要です。。
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◆ 艮為山・四爻が教える生き方
艮為山の四爻は、止まる力を「自身」に及ぼし、欲や言葉を外へ出さないことで咎を避ける道を示します。外部に働きかけて外を変える前に、自身を整える。言う前に、胸に収める。得ようとする前に、欲を鎮める。功を立てるより、過ちを防ぐ――その節度が、この爻の示す最も確かな歩み方です。

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