周易64卦384爻占断
263、天風姤(てんぷうこう)5爻
◇ 姤とは何か?
天風姤(てんぷうこう)は、「思いがけぬ出会い」「不意に入り込むものに遭う」働きを示す卦です。
上卦は乾(天)、下卦は巽(風)で、風がどこへでも忍び入り、まとわりつくように、下から一陰が現れて剛健の天に近づく象を持ちます。
姤の要点は、初爻に現れた一陰を「どう扱うか」です。
小さいうちは害が見えにくく、むしろ魅力や便宜に見えることがある。しかし、放置すれば勢いを増し、やがて坤の硬さへ至る端緒となる――ここを見誤らぬことが肝要です。
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◆ 卦全体が教えてくれること
この卦は、初爻が成卦の主であり、五爻が主卦の主です。
主賓で言えば、初爻が主となり、二爻から上爻までの五陽が賓客となって、初爻の一陰を対照しつつ卦意を展開します。
五爻は君位に当たり、剛健中正を得た中心の位置です。
ゆえに姤に処する道を、最も全般的に示す爻となります。すなわち、望まぬものが“天から落ちて来た”ように現れても、乱暴に排するのではなく、徳によって包み、表に出し切らず、かえって卦の働きを「章(あや)」として活かす――これが五爻の骨子です。
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◆ 五爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「杞(き)を以って瓜を包む。章を含む。天より隕(お)つる有り。」
【象伝】
「九五章を含むは中正なればなり。天より隕(お)つるありとは、志命(めい)を舎(す)てざるなり。」
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● 解釈
「瓜」は初爻の一陰を指します。二爻で「魚」と例えたものを、ここでは「瓜」と見ています。いずれも、人の欲を誘い、甘美で、つい手を伸ばしたくなる陰物の譬えです。
「杞」は喬木の一種で葉の繁ったものとされ、二・三・四・五・上の陽、すなわち一陰を取り巻く五陽を指すと見ます。巽を「まとわりつく」と取れば、瓜の蔓が杞に巻きつく象が成り立ちます。
ここで「杞を以って瓜を包む」とは、瓜を引き抜いて捨てるのではなく、葉で覆い、外へ露わにしないことです。陰が五陽の下に匿されているからこそ“あでやか”に見え、存在が「章」として働く。もしこれをむき出しにすれば、「女壮なり」の本性が前面に出て、蠱惑や淫逸の害が露呈し、結局は人を乱します。
そこで「章を含む」と言います。章は「あや」であり、また才でもありますが、才というものは隠して隠し切れずに滲み出るからこそ奥床しく、敬われる。丸出しにすれば、感心はされても敬意は集まりにくい。陰の扱いも同様で、露骨に断罪し、表沙汰にして争えば、かえって害を拡大しやすい。徳によって包み、節度の中に置き、見せ過ぎぬことが最善となる――これが「含章」の要義です。
次に「天より隕つる有り」は、夬で決し去られた陰が、思いがけなく下に位して戻って来た、いわば“天から落ちて来た”ような運命の到来を指します。象伝はこれを「志命を舎てざる」と言い、望まぬ出来事であっても、時の勢い・命運として来たものを、ただ無用有害と断じて放任せず、受け容れた上で、正しい処し方へ収めよ、とします。
ここが五爻の強みで、剛健中正の徳がある者は、陰を露骨に増長させず、かつ徒に排斥して混乱も生まず、包んで「章」として用い、卦の効能――「天地相遇うて品物咸く章かなり」と言われるような、物事が整い、文理が立つ働きへ転じ得ます。
姤の下降は君子の道が傾き始める第一歩でもありますが、処し方を誤らなければ、むしろ禍を福に転ずる余地がある、と五爻は示しているのです。
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◆ 含まれる教え
- 望まぬ出来事でも、天命として来たなら放任せず、正しく処置せよ
- 陰をむき出しにして争うほど、害が広がりやすい
- 才も事情も「見せ過ぎぬ」ことで奥床しく働き、秩序が保たれる
- 真相は表面に出ないことが多い。知っても騒がず、含みをもって運べ
- 中正の徳があってこそ、禍を整え、章として活かし得る
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◆ 仕事
仕事では、表面に見える話が真相ではなく、内に計略・秘密・陰事を含むことが多い時です。
気配を察しても、いきなり暴き立てず、知らぬ振りで運ぶほうが無難です。「含章」とは、まさにこの姿勢です。
新規着手や拡張の好機ではありません。焦って動けば、陰がむき出しになって争いを招き、失敗しやすい。今は包み、整え、時を待つ。交渉も同様に、相手の粗を探して楯にし、争いを仕掛けるのは凶です。寛容にして神経質になり過ぎず、流れに合わせて損害を出さぬ運びが肝要です。
また「天より隕つる有り」から、転任・転職・配置換えなど、思いがけぬ変化が起こる場合があります。その際は焦慮よりも、機運に従って整え直すほうが、のちに得るところがあります。ただし、受け身で放置せず、準備と気構えを整えておくことが前提です。
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◆ 恋愛
姤は元来、思いがけぬ縁・誘惑の色が濃い卦です。五爻では、甘美な「瓜」を包むとあるように、惹かれる気持ちがあっても表に出し切らず、節度を守ることが安定の鍵になります。
婚姻・縁談は、仲人口に欺かれることが多いと見ます。言葉の巧みさ、条件の良さだけで決めず、裏の事情を含んでいないか慎重に見極めるべきで、成る可く見合わせる方がよい、という判断になります。
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◆ 天風姤(五爻)が教えてくれる生き方
五爻が教えるのは、運命の“落下”に出会った時の姿勢です。
望まぬものが来たとしても、捨て置けば害が増す。
しかし、むき出しにして争えば、乱れはさらに大きくなる。
だから、剛健中正の徳で包み、含みをもって処し、章として活かす。
知っても騒がず、見せ過ぎず、時を待ちながら整える。
この慎み深い手つきこそが、姤の難を福へ転じる道です。

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