周易64卦384爻占断
258、沢天夬(たくてんかい)上爻
◇ 夬とは何か?
沢天夬(たくてんかい)は、「決する」「断ち切る」「邪を排して道を正す」という働きを示す卦です。
上卦は兌(沢)、下卦は乾(天)で、剛健な乾の勢いが下から押し上がり、上に残る一陰(私欲・邪曲・停滞の根)を決去しようとする象を持ちます。
夬は、感情的に叩く卦ではありません。
むしろ「正すべきものを、正しい手順で、決断して処置する」卦であり、
進む時期・進め方・一線の引き方を誤ると、決断そのものが争い・破局へ転じやすいところに注意があります。
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◆ 卦全体が教えてくれること
夬の卦は、五陽が一致して一陰を決する局面です。
つまり、全体としては「邪を去る」方向が強く、正義・規律・組織の意思が通りやすい。
しかし、上爻はその“決される側”の極点です。
ここに来ると、もはや説得や挽回ではなく、「終局としての決着」が避けがたくなります。
したがって上爻は、夬の勢いが最終段階に達したところとして、凶意が明確に現れます。
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◆ 上爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「號(よば)う无(な)し。終(つい)に凶(きょう)有(あ)り。」
【象伝】
「號(よば)う无きの凶(きょう)は、終(つい)に長(なが)かる可(べ)からざるなり。」
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● 解釈
「號う无し」は、声を上げて訴える力が失われる象です。兌を口と取り、叫ぼうとしても、もはや声が通らない。しかもこの爻が変ずれば乾となり、乾は充満した形で、これまで口として働いていた兌が塞がれるように見え、窒息するごとく追い詰められる局面を示します。ゆえに「終に凶有り」と断じます。
ここで言う凶は、卦全体の凶ではなく、この上爻そのものの身の凶です。上位の枢要にあって勢望威力を振るった者が、下から進んで来た五陽の力によってついに決し去られ、助けを求めても響かず、抵抗しても覆る――その終局です。
象伝の「終に長かる可からざるなり」は、この凶が“長続きしない”という意味であり、悪が永く居座るのではなく、決着が付いて退くことを示します。ただし当人にとっては、まさに救いの乏しい終局であり、もはや策を弄して凌ぐ段階ではありません。
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◆ 含まれる教え
- 叫んでも通らない局面では、弁明・取り繕いで局面は戻らない
- 力や地位で押し通したものは、最後に孤立して支えを失う
- 「終局の凶」は、長引かず決着するが、当人の損失は大きい
- 争いを拡大して足掻くほど、決裂が早まる
- ここに至る前の段階で、筋を正し、身を退き、過を改めるのが最善
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◆ 仕事
仕事では、立場の失脚・権限停止・契約解除・更迭など、終局の処置が出やすい象です。
交渉や説明で覆すよりも、決裁・結論が先に立ち、「言っても通らない」形になりがちです。
この爻を得た場合は、攻めて勝つ策を考えるより、損害の最小化が第一になります。
責任の所在を曖昧にしたり、感情的に争ったりすれば、決裂が確定しやすい。
退くべきときは退き、事後処理・整理・引継ぎに徹するのが現実的です。
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◆ 恋愛
縁談・婚姻は凶意が強く、話が決裂に至りやすい象です。
誤解や不信が重なると、説明しても納得されず、最後は「言葉が届かない」形で終わりやすい。
無理に押し通すほど傷が深くなるので、冷静に距離を置き、区切りを付ける判断が要ります。
すでに関係が硬直している場合は、修復よりも終結を前提に整えるほうが、後の禍根を残しません。
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◆ 沢天夬(上爻)が教えてくれる生き方
上爻が教えるのは、「末に至れば、言葉よりも現実が先に来る」という戒めです。
叫べぬほど追い詰められる前に、私欲・偏り・慢心を削ぎ、正すべきところを正しておく。
それができなかったものは、最後に声を失い、終局の処分を受けます。
凶は長引かず決着します。だからこそ、執着で足掻くより、潔く身を引き、次に向けて立て直す。
夬の上爻は、その「終わらせ方」によって、次の道の是非が決まることを教えています。

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