周易64卦384爻占断
254、沢天夬(たくてんかい)2爻
◇ 夬とは何か?
沢天夬(たくてんかい)は、「決(けっ)して断つ」「邪を押し出し、正を立て直す」ための卦です。
上卦は兌(沢)、下卦は乾(天)で、内には強い推進力(乾)が満ち、外には決開・言挙げ(兌)の作用が現れます。
ただし夬は、勢いだけで押し切る卦ではありません。
「決する」とは、正しい根拠と手順をもって、危うい芽を見逃さず、しかし時を誤らずに断つことです。
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◆ 卦全体が教えてくれること
夬の卦は、五つの陽が一つの陰を決していく形です。
つまり、正を押し通す流れが強い一方で、最後の一陰(わずかな不正・弱点・油断)が、全体の破れ口になり得る局面でもあります。
このため夬は、「前へ進む」よりも先に、警戒・用心・中道を整えることが要になります。
特に二爻は、内卦乾の勢いの中にありながら、中を得て、猛進を戒める要所です。
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◆ 二爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「惕(おそ)れて號(よば)う。莫夜(ぼや)に戎(つわもの)有(あ)るも恤(うれ)うる勿(なか)れ。」
【象伝】
「戎(つわもの)有(あ)るも恤(うれ)うる勿(なか)れ、中道(ちゅうどう)を得(え)たるなり。」
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● 解釈
九二は、進む力(乾)の中にありながら、惕れて號う――すなわち、自分にも周囲にも「油断するな」と警鐘を鳴らし、慎重に備える位です。
初爻のように血気で突っ走るのではなく、危険を危険として先に見て、守りを固めるところに価値があります。
「莫夜(ぼや)に戎有る」とは、夕暮れ・不意の時に兵(つわもの)、すなわち思いがけない攻撃・不意討ち・急変が起こり得る象です。
けれども「恤うる勿れ」は、安心せよという意味ではなく、“心配の種を現実の破れにしないよう、警戒を怠るな”という戒めです。
象伝は、その所以を「中道を得たるなり」と断じます。
中道とは、勢いに偏らず、恐れに沈み過ぎず、正しい筋で備えること。
だからこそ、夜討ちのような変事に遭っても、破れを取らずに済む――ここが九二の骨子です。
なお九二が変ずれば下卦は離となり、沢火革(たくかかく)に向かいます。
革は改め正す象ですが、革命は「準備と手順」があってこそ成り、慌てて動けばかえって混乱します。
九二はまさに、その改めの前に守りと整えを先に置けと教えています。
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◆ 含まれる教え
• 勢いのある時ほど、まず「惕れて號う」――警戒を言葉と行動で形にせよ
• 「恤うる勿れ」は楽観ではなく、備えによって心配を現実化させぬ戒めである
• 不意の変(莫夜の戎)を想定し、守り・手順・証拠を先に固めよ
• 中道を守れば、攻め込まれても破れに至らない
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◆ 仕事
仕事では、表面は前進の機運があっても、裏では急な変更・対立・不意のトラブルが生じやすい局面です。
したがって、九二の最善は「攻める」より守備を先に整えることです。
契約・規約・証憑(書面)・引き継ぎ・稟議など、後で争点になり得るものを点検し、抜けを塞ぐべき時です。
交渉や談判も、こちらから仕掛けて押すより、先方の出方(時に不意)に備え、落ち着いて受け止めるのが良いでしょう。
中道を得ていれば、相手が荒く出ても、こちらは破れずに済みます。
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◆ 恋愛
恋愛では、気持ちだけで突き進むと、思わぬ誤解や第三者の口(仲人口)で波が立ちやすい時です。
「惕れて號う」は、疑心暗鬼ではなく、誠実な確認と段取りを怠らぬこと。
焦って迫るよりも、互いの事情・周囲の状況・言葉の行き違いを丁寧に正し、誤解の芽を早めに摘むのが吉です。
縁談は総じて慎重を要し、とくに間に人が入る場合は、情報の齟齬が出ぬよう注意が要ります。
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◆ 沢天夬(九二)が教えてくれる生き方
九二が教えるのは、勝ちに行く勇気より、破れを作らぬ用心です。
不意の変は避け難いとしても、備えと中道があれば、変は「破局」ではなく「保持」に変わります。
声を上げて警戒し、手順を守り、攻め急がず、守りを固める。
それが、夬の道を正しく通す九二の生き方です。

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