253、沢天夬(たくてんかい)初爻

周易64卦384爻占断

周易64卦384爻占断

253、沢天夬(たくてんかい)初爻

◇ 夬とは何か?

沢天夬(たくてんかい)は、「決する」「断ち切る」を意味する卦です。

上卦は兌(沢)、下卦は乾(天)で、強い陽気(乾)が結束し、上にある一陰を押し出して決断を迫る象を持ちます。

夬の「決」は、感情的な断罪や乱暴な突破ではありません。

大切なのは、

  • 決すべき対象を見誤らないこと
  • 時機が熟しているかを見極めること
  • 正道に拠って、過剰な勢いを制すること

です。決断には勢いが要りますが、勢いが先走れば破れを招きます。

◆ 卦全体が教えてくれること

夬の卦は、初爻から五爻までの陽が、一陰を決するために進む局面を示します。

ただし「決する」ことは、いつでも同じ速度で行えるわけではありません。始めほど機運が未熟で、上に至るほど局面が整い、決断が実効を伴いやすくなります。

初爻はその出発点であり、勢いはあるが、状況がまだ追いついていない段階です。

ゆえに、この卦の初爻は「進むべきこと」よりも、「進みたくなる勢いを制して時を待つこと」を強く教えます。

◆ 初爻の爻辞と解釈

【爻辞】

「趾(あし)を前(すす)むるに壯(さか)んなり。往(ゆ)けば勝(か)たず、咎(とが)と為(な)す。」

【象伝】

「勝(か)たずして往(ゆ)くは、咎(とが)なり。」

● 解釈

初爻は交位において「足(趾)」に当たり、自ら前へ出て動こうとする位置です。

しかも内卦が乾であり、陽が陽位に居るため、気が充実し、勢いよく踏み出したくなる――これが「趾を前むるに壯んなり」の姿です。

しかし、ここは夬の始めで、決断の機運がまだ熟していません。

決すべき対象(上の一陰)を押し切るには、準備・根回し・局面の整いが不足している段階です。そこで今すぐ「往けば」、勝てずして破れを取り、結果として「咎」となる――爻辞はそう告げます。象伝もまた、勝てないと分かっていながら進むこと自体が咎である、と断じています。

この爻を得た時に注意すべき核心は、実力・財力・声望などを過信して「時期尚早の決行」に踏み切ることです。

勢いがあるため自分では行けるように感じますが、夬の初爻は「止まって時機を俟つ」ことを命じます。

さらに、変じて澤風大過となる点も見逃せません。

大過は「分に過ぐる」の象であり、過剰な負荷や無理な決行が破綻や痛手(流血の兆を含む)に結びつきやすいことを示します。夬の決断は必要でも、初爻の段階では「決断の形」を急ぐほど、損害が先に立つ――それがこの爻の警告です。

◆ 含まれる教え

  • 勢いが強い時ほど、「勝てる条件」が揃っているかを点検せよ
  • 時機未熟の決行は、正しさより先に破れを招く
  • 自信は武器にもなるが、初動では誤算の温床にもなる
  • 「決する」前に、止まり、整え、勝てる局面を作れ
  • 過剰(大過)に傾く兆がある時は、特に退守が吉となる

◆ 仕事

仕事では、強い推進力が出やすい一方で、「まだ相手(環境・上層・取引先)が応じる用意がない」局面です。

提案・改革・交渉を今すぐ押し通そうとすると、手違い、反発、条件不利での決着など、勝ち切れない形での損を招きます。

この爻の実務的な指針は明確で、消極退守、準備の徹底です。

根拠資料の整備、味方固め、段取りの再点検、時期の見極めを優先し、「勝てる形」にしてから動くのがよいでしょう。

◆ 恋愛

恋愛・縁談では、当方は強く進めたい気持ちが起こりやすいのですが、相手側の準備や合意が整っていないことが多い時です。

押せば押すほどまとまりにくく、仮に進んでも和合を得がたい――これが爻意です。

焦って形にするよりも、距離の取り方、時間の置き方、言葉の順序を整え、「相手が自然に応じる時」を待つ方が安全です。

◆ 沢天夬(初爻)が教えてくれる生き方

初爻が教えるのは、勢いの自己統御です。

「進みたくなるほど力がある時ほど、止まれるかが試される。

勝てぬ時に進むのは、決断ではなく過信である。」

決断は、正しさだけで成立しません。勝てる局面を整え、時機を得てこそ、夬の「決」が功となります。

足を出す前に一歩引き、勝てる条件が揃うまで待つ――それが、夬の始めに立つ者の最良の歩み方です。

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