252、風雷益(ふうらいえき)上爻占断

周易64卦384爻占断

周易64卦384爻占断

252、風雷益(ふうらいえき)上爻

◇ 益とは何か?

風雷益(ふうらいえき)は、「増やして救う」「上の余力を下へ回して、損失や不足を補う」という働きを示す卦です。

上卦は巽(風)、下卦は震(雷)で、風が入りこみ(巽=入る)、雷が動かす(震=動く)ことで、停滞を破って成長の流れを起こす象を持ちます。

益は、ただ“得をする”卦ではありません。

大切なのは、

  • 何を増やし、どこへ回すか
  • 益を「公」に用いて、私欲に染めぬこと
  • 益が極まれば、やがて損へ転じる境目を見落とさぬこと

です。益の盛りは、同時に「反動の入口」でもあります。

◆ 卦全体が教えてくれること

益の卦は、閉塞をほどいて不足を救い、物事を伸ばしていく局面を示します。

初爻では「大作」をなす勢い、二爻では「外から巡る思いがけない益」、五爻では君位の「孚(まこと)ある恵心」によって人心がまとまり、益道が整っていきました。

しかし、益は無限に続きません。

益が尽きるところは損へ転じます。上爻はまさにその瀬戸際で、益の徳が薄れ、私利に偏り、外からの憎しみや攻撃を招きやすい――「益の終わりに潜む凶」を告げる位置になります。

◆ 上爻の爻辞と解釈

【爻辞】

「之(これ)を益する莫(な)し。或いは之を撃(う)つ。心を立つること恒(つね)勿(な)し。凶。」

【象伝】

「之を益するなきは偏辞(へんじ)なり。或いは之(これ)を撃つは、外より来るなり。」

● 解釈

上爻は、益道が将に極まって損へ転ずる転機に当たります。損の終りが益へ転じて吉を開くのに対し、益の尽きるところは損へ変わるので、ここでは凶禍を見ることになります。

爻辞の「之を益する莫(な)し」は、もはや人を益する働きが無い、という断です。益の根本である「人を潤す心」が枯渇し、巽(風)の性が私利に偏って、利を求めて入りこむことだけが強くなり、益すべきところを益さず、己れの利のみを計る――その偏りが、象伝の「偏辞(へんじ)なり」に当たります。偏辞とは、言葉や理が偏っていることであり、ここでは心の向きが私に傾いていることを指します。こうした吝嗇と偏りは、外の怨みを買い、危害を招く因になります。

続く「或いは之を撃(う)つ」は、その反動が具体化する形です。象伝は「外より来るなり」と言い、攻撃は“内から起こる必然”というより、外側から飛んでくる――すなわち、外部の反感・対立・競争・中傷・制裁のような形で現れやすいと示します。益が公から私へ傾いた瞬間、外の視線は厳しくなり、排撃の口実が生まれるのです。

さらに「心を立つること恒(つね)勿(な)し」は、志が一定せず、定めてもすぐに変わる浮動を告げます。巽には進退の象がありますが、この爻位ではそれが「果さず」「揺れ動く」側へ傾き、一定の筋を保てません。益は本来、孚(まこと)を重んじて人心を集める道ですが、恒(つね)無き心では、信を失い、結局は凶に落ちます。欲深さと頑なさ、そして定まらぬ心――この組合せが、外からの排撃を招き、凶を成すのです。

◆ 含まれる教え

  • 益が尽きるところは損へ転ずる、盛りのうちに退き方を決めよ
  • 公の益が私利へ偏れば、外の怨みを買い、外からの排撃を受ける
  • 志が定まらず(恒勿し)、方針が揺れると信用が崩れる
  • 欲張る事は「もう益が無い」地点で最も危ない
  • 打たれる前に、偏りを正し、静守へ切り替えるのが上策

◆ 仕事

仕事では、拡大や獲得の余地がすでに薄く、なお「皿までしゃぶる」ように取りに行けば破綻しやすい局面です。

自社都合・自己評価・私利の押し通しが目立つと、取引先・同僚・競合など外側からの反発が強まり、象伝のいう「外より来る」形で、クレーム・契約破談・不利な噂・監査や指摘として現れやすいでしょう。

ここは、前へ出て益を取りに行くより、退いて静かに守る方針へ転じるべき時です。

方針変更を重ねて右往左往するのは凶を深めますから、「これ以上は伸ばさない」「守るべき線を引く」と決め、恒(つね)無き動揺を止めることが肝要です。

◆ 恋愛

縁談は見合わせが無難です。上爻は「益する莫し」とあるように、関係を育てて互いを益する力が弱まり、相手に与えるより自分の利を優先しがちな兆があります。

また「外より来る」ため、当人同士の問題というより、周囲の反対・中傷・外部事情が割り込みやすく、心が定まらないまま進めれば凶に傾きます。

この時は、結論を急がず、私心を薄め、言動を一貫させること。恒(つね)無き姿勢を改められないなら、進めずに退く判断が正着です。

◆ 風雷益(上爻)が教えてくれる生き方

上爻が教えるのは、「増やすこと」ではなく「増やす事をやめる勇気」です。

益の徳が尽きたところでなお求めれば、偏りが生まれ、外からの排撃を招き、心も定まらず凶に落ちます。

だからこそ、盛りのうちに私欲を削ぎ、線を引き、静かに守る。

志を一つに定め、恒(つね)を取り戻す。

益を手放すことで、かえって損への転落を防ぐ――これが、益の終点に立つ上爻の歩み方です。

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