周易64卦384爻占断
251、風雷益(ふうらいえき)5爻
◇ 益とは何か?
風雷益(ふうらいえき)は、「上を損して下を益する」ことで停滞を破り、足りない所へ力を回して全体を立て直す卦です。
上卦は巽(風)、下卦は震(雷)で、風が内に入り(巽=入る)、雷が下から動かす(震=動く)象を持ちます。
益は単なる「増える」ではなく、増やすべき所に増やし、全体の生気を回復させる働きであり、その根にあるのは「孚(まこと)」です。
◆ 卦全体が教えてくれること
益の卦は、閉塞を破って下の困窮を救い、民・組織・家庭の基礎を厚くする流れを示します。
ただし益は、力づくの強制ではなく、誠が通って上下が感応し、助け合いが自然に起こることで功が成る卦です。
ゆえに、益において最も重い鍵は「孚(まこと)」であり、上に立つ者の心が正しく通っているかが全体の吉凶を左右します。
◆ 五爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「孚(まこと)有りて恵心(けいしん)。問うこと勿(なか)れ元(おおい)に吉。孚有りて我徳を恵む。」
【象伝】
「孚有りて恵心は、之(これ)を問うこと勿(なか)れ。我徳を恵むは大いに志を得るなり。」
● 解釈
五爻は君位に在って、益の道を司る中心です。ここは四爻のように身みずからを損して直接に下を益する立場ではありませんが、その心が常に民の乏しさを憂えて救おうとする「恵心(けいしん)」で満ちているところに価値があります。
そして、その恵心が作りものではなく「孚(まこと)」に裏打ちされているならば、もはや亀卜に問うて確かめる必要すらない――それほどに「元(おおい)に吉」だと言います。象伝が「問うこと勿れ」と強く言い切るのは、問うという行為が疑いを含むからであり、この段に至ってなお誠を疑うようでは、益の道そのものが崩れるからです。
さらに爻辞後半の「孚有りて我徳を恵む」は、上の孚に感応して、下(民・部下・周囲)もまた孚をもって君の徳を讃え、力を合わせてくることを示します。象伝が「我徳を恵むは大いに志を得るなり」と結ぶのは、徳が行き渡り、人心が帰して、志(こころざし)が大きく通るからです。
一つの爻の中で二度までも「孚」を言うのは、上の孚と、下の孚が相応して益が完成する筋を強調するためで、益道において孚がいかに根本かがここに現れます。
また益は離の似卦で、中が虚であるところに孚の象があると見ますが、この五爻が変じると頤となります。頤は上下相向かう象意があり、協力の実が上がる時を示すため、孤立単行を慎み、和合して進めるほど益が大きるなると取ります。
◆ 含まれる教え
- 上に立つ者の「恵心(けいしん)」は、策略ではなく孚(まこと)から出ねばならない
- 孚が真であれば、占って確かめる以前に道理として吉が定まる(「問うこと勿れ」)
- 上の孚が立てば、下も孚をもって応じ、徳が行き渡って志が通る
- 益が成るほど、孤立より協同が要となる(変じて頤:上下相向かう)
- 私欲が入ると、寸前で崩れる――益は「誠」で保つ
◆ 仕事
仕事では、部下・顧客・周囲の信望が集まり、協力体制が整う時です。方針を疑って揺らすより、誠意の筋を立てて進めれば、自然に人が動きます。
ただし、この爻が最も戒めるのは私欲です。利益や手柄を急いで策に走ると、益の勢いが強い分だけ破綻も速くなります。和同の象があるので、交渉や調整は進んでよいが、争論の芽を防ぐために、話す順序・落とし所・配分の筋を丁寧に整えることが肝要です。
◆ 恋愛
恋愛・縁談は、互いに向き合って関係を固めていける象があります。ただし一面に小さな行き違いや苦情が出やすい気配もあるため、感情で押し切らず、誠意をもって話し合い、筋を立ててまとめるのが吉です。
「孚(まこと)」が中心の爻ですから、言い訳や駆け引きより、率直さと配慮で信を積むほど安定します。
◆ 風雷益(五爻)が教えてくれる生き方
五爻が教えるのは、上に立つほど“恵心(けいしん)”を持ち、心を誠で満たし、疑いを挟まずに徳を行き渡らせる生き方です。
誠が立てば、占わずとも吉と定まり、人は自ら応じてくる。
協力が集まる時ほど私欲を離れ、和合を選ぶ――それが益を実にし、志を大きく通す道です。

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