周易64卦384爻占断
243、山沢損(さんたくそん)3爻
◇ 損とは何か?
山沢損(さんたくそん)は、「減らす」「削ぐ」「差し出す」ことによって、全体の釣り合いを回復する卦です。
上卦は艮(山)、下卦は兌(沢)で、沢の満ちるものを山が受け止め、余りを節して不足を補う象を持ちます。
損は単なる我慢や貧しさの卦ではありません。
むしろ、
- 余分を落として要を立てる時
- 多すぎる選択肢を絞って一本化する時
- 「足りない方」を生かすために「余る方」を抑える時
に働く、秩序回復の原理を示します。
何を削り、何を残すか——その取捨の精度が、損の吉凶を決めます。
⸻
◆ 卦全体が教えてくれること
損の卦は、
- こちらが差し出すことで
- 相手(あるいは不足している部分)が立ち
- 結果として全体が整う
という流れを示します。
ただし重要なのは、「多く差し出すほど良い」ではないことです。
損の働きは、量よりも適合です。
過剰な投入はかえって混乱を生み、目的を曇らせます。
三爻はまさにそこを突きます。
「たくさん連れて行く」「手を広げる」「手段を複数用意する」ことが、疑いと分裂を生み、結局は損になる。
反対に、最初から一本に定めれば、余計な疑念が消え、必要な“友”(適合する相手・正しい補い)が得られる。
損における“選び抜く力”を示す爻です。
⸻
◆ 三爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「三人行けば則(すなわ)ち一人を損し、一人行けば其の友を得。」
【象伝】
「一人なれば行き、三なれば則ち疑うなり。」
⸻
● 解釈
ここで言う「三人」は、同じ目的のために“複数の力・複数の候補・複数の口”を同時に持ち出す象です。
数が増えれば増えるほど盤面は賑やかになりますが、同時に「誰が正しいのか」「どれを採るのか」が曖昧になり、疑いが生じます。象伝の「三なれば則ち疑う」とは、まさにこの混濁を指します。
その結果として起こるのが、「一人を損す」。
三人で行っても、結局は中心が一つに収束するか、あるいは一人が外される形になります。
つまり最初から三で行くこと自体が、内部に乖離(仲間外れ・割れ・分裂)を作りやすいのです。
これに対して「一人行けば其の友を得」は、最初から焦点を一つに絞り、余計な同伴(余計な手段・余計な助言・余計な関係)を持ち込まない象です。
すると疑いが起こらず、必要な相手と自然に合い、補い合う関係——「友」が得られる。
損の三爻は、多勢を誇るのではなく、最適の一点に合わせることを教えます。
「削るべきは外ではなく、まず自分の側の“余計さ”である」——その判断が、損を生かす鍵になります。
⸻
◆ 含まれる教え
この爻が教えるのは、損の時の実践法です。
- 人を増やせば良くなる、とは限らない
- 選択肢を増やすほど、迷いと疑念が増える
- 大事なのは「数」ではなく「適合」
- 目的が一つなら、手段も一つに寄せよ
- 余計な仲介・余計な口・余計な同伴を損して、核心を立てよ
損は「減らす」ことで「通る」。
三爻は、減らす対象が“外部”ではなく、自分の側の散漫さであることを示します。
⸻
◆ 仕事
仕事では、次のような場面に当たりやすい爻です。
- プロジェクトに人を入れすぎて意思決定が鈍る
- 相談相手が多すぎて方針が揺れる
- 共同でやるほど調整コストが増える
- 代理・仲介を挟んで話がねじれる
この爻の要点は、独立単行が利を得ること。
共同が悪いのではなく、「今は共同が疑いを生む局面」ということです。
やるべきは、
- 目標を一つに絞る
- 交渉は中間を挟まず自分で当たる
- 余計な説明・余計な材料を削る
- “この一点だけは譲らない”芯を立てる
その確固たる一本が立つと、周囲はむしろ追随し、話がまとまりやすくなります。
⸻
◆ 恋愛
恋愛では、三爻は「目移り」と「三角」を強く戒めます。
- 気持ちが複数に散って疑念を招く
- 周囲の意見を入れすぎて関係が揺らぐ
- 仲介や噂が入り、こじれやすい
一方で「一人行けば其の友を得」とあるように、
心を一つに定めたとき、縁はまとまりやすい爻でもあります。
決めるべきは、
- 誰を大切にするのか(対象の一本化)
- どう進めるのか(余計な介在を減らす)
これさえ守れれば、良縁を逃さずに済みます。
逆に、迷いが続くと、せっかくの縁が「損」になりやすい——そこがこの爻の急所です。
⸻
◆ 山沢損(三爻)が教えてくれる生き方
三爻が教える生き方は、はっきりしています。
「増やして強くなるのではない。
削って澄ませることで、最短の道が開く。」
- 余計な同伴を損して、自分だけで進む
- 迷いを損して、志を一つに定める
- 群れの安心より、独行の誠を選ぶ
一人で立つことは、孤立を意味しません。
むしろ、余計を削った者には、必ず“友”——適合する助けと結び目が現れる。
損の三爻は、その静かな確信を示しているのです。

コメント