周易64卦384爻占断
227、火沢睽(かたくけい)5爻
◇ 睽とは何か?
火沢睽(かたくけい)は、「背く」「隔たる」「一致しない」ことを象徴する卦です。
上卦は離(火)、下卦は兌(沢)であり、火は上へ燃え上がり、沢は下へ潤い沈むため、本質的に方向が逆で、相い和しにくい象を持ちます。
睽は争いそのものを勧める卦ではありません。むしろ、
- 人の心が離れやすい時
- 立場・意見・価値観が食い違う時
- 正面から進めば必ず衝突する時
において、どう背反に処し、どう和を保つかを教える卦です。強引な一致を求めれば破綻し、距離を見極めて対処すれば咎を免れる、その「分かれてなお道を失わぬ智慧」が睽の核心です。
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◆ 卦全体が教えてくれること
睽の卦は、
- 和合は困難
- 正攻法は通りにくい
- しかし完全な断絶ではない
という状況を示します。
この卦において重要なのは、「どう一致するか」ではなく、「どうズレたまま道を保つか」です。相手を正そうとすれば対立が深まり、自らを曲げれば道を失う。そこで必要となるのが、間合いの取り方、衝突を避ける工夫、そして内側(身近な助力・協力関係)を整える現実的な手立てです。
五爻は、睽のただ中にあって、なお「悔いを消し」「進めば慶びがある」筋道を示します。ただしそれは、外へ豪胆に攻める勝利ではなく、障りを噛み砕くように、近しい者と力を合わせて内部の詰まりをほどいていく道です。
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◆ 五爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「悔(くい)亡(ほろ)ぶ。厥(そ)の宗(そう)膚(はだえ)を噬(か)む。往(ゆ)けば何(なん)の咎(とが)あらん。」
【象伝】
「厥(そ)の宗(ともがら)膚(はだえ)を噬(か)むは、往(ゆ)きて慶(よろこび)あるなり。」
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● 解釈
五爻の冒頭は「悔亡ぶ」です。睽の卦は背き合うため、もともと悔い・反目・滞りを生じやすい大象の中にありますが、五爻はそれが次第に解けていく位です。なぜなら、五爻は応じる二爻と陰陽相感し、形式ばった是非の追及よりも、和親を優先して背反を取り除こうとするからです。
「厥の宗膚を噬む」は、その結びつきの深さを形容します。宗とは仲間・同類・身近な一族のようなもので、ここでは二爻との密接な結びつきを指します。しかも「膚を噬む」とは、硬い骨を砕くのではなく、柔らかな皮膚に食い込むように“離れ難い密着”を言うため、関係が切れ切れになりそうで切れない、むしろ助け合いの芯が残っていることを示します。だから「往けば何の咎あらん」と言えるのです。さらに象伝は、咎がないだけでなく「往きて慶びある」と一段強く押し出します。
ただし、ここでの「往く」は、外に向かって強く打って出る進軍ではありません。五爻を得る時は、万事が不如意で辛苦が絶えにくく、まずは障りを取り除く“消極の努力”が精一杯になりがちです。妄進すれば危うい。だからこそ、目下・身近な助力(宗)と協力し、内部の詰まりをほどくことで、結果として道が開け、慶びに至る――この順序が要点になります。
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◆ 含まれる教え
この爻が教えるのは、睽の時の実務的な転換です。
- 物事が思い通りに行かない時ほど、外へ攻めず内を整える
- 障りは「強硬に砕く」より「噛みほぐす」方が早い
- 独断で押し切らず、目下・身近な協力者と歩調を合わせる
- 形式よりも、信頼と連携を重んじて背きを薄める
- 進むなら、衝突ではなく“詰まりの解消”へ進む
睽の苦しさを消す鍵は、正面対決ではなく、近い所からの解きほぐしにあります。
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◆ 仕事
仕事では、停滞・齟齬・反目が出やすく、努力しても手応えが薄い局面になりがちです。ここで外へ強く出て成果を取りに行くと、かえって損を大きくします。方針は「内部整備」です。
- 身近な部下・同僚・協力先と、役割分担と合意を作り直す
- 独断を避け、現場の声(目下)を拾って詰まりを特定する
- 大きな拡張や新規の強行より、障害の除去と再整列を優先する
- 不如意の原因を“噛み切る”のではなく“噛みほどく”手順で解く
目下の助力を得て、上は親しみ、下は敬うような協和が整うほど、遅れていたことが動き出しやすく、最終的に「慶び」に繋がります。
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◆ 恋愛
恋愛では、当人同士に気持ちがあっても、周囲事情や性格差でまとまりにくい、または一度こじれて滞りやすい象があります。最初は噛み合わず不調でも、時間をかけて整えば後に調う、という推移を含みます。
- 相手を正そうとして押すほど、背反が深まる
- 近しい信頼(共通の理解者、日々の小さな積み重ね)を育てるほど、縁は戻りやすい
- ただし、男が柔弱に傾く/女が強剛に過ぎるなど、力の釣り合いには注意が必要
復縁には比較的良い象があり、関係の“詰まり”をほどければ、再び噛み合う余地が出ます。
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◆ 火沢睽(五爻)が教えてくれる生き方
五爻が伝える生き方はこうです。
「背反状況の時は、外へ勝ちに行くな。近い所から詰まりをほどけ。協力が整えば、悔いは消え、進めば慶びがある。」
- 大きく打って出る前に、内側の不調和を整える
- 独りで抱えず、身近な助力と連携して道を開く
- “苦しい時ほど丁寧に”を貫けば、背きは薄れ、結果はついてくる
睽のただ中でも、和の芯を残し、噛みほどくように前へ進む者は、咎を免れ、最後に静かな喜びへ辿り着けるのです。

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