周易64卦384爻占断
226、火沢睽(かたくけい)4爻
◇ 睽とは何か?
火沢睽(かたくけい)は、「背く」「隔たる」「一致しない」ことを象徴する卦です。上卦は離(火)、下卦は兌(沢)であり、火は上へ燃え上がり、沢は下へ潤い沈むため、本質的に方向が逆で、相い和しにくい象を持ちます。睽は争いを勧める卦ではなく、心や立場が食い違う時に、正面衝突を避けつつ道を失わないための距離感と処し方を教える卦です。強引に一致を迫れば破綻し、互いの隔たりを認めて節度ある通路を確保できれば、咎を免れて「背反の中における和」を得る、その智慧が睽の核心です。
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◆ 卦全体が教えてくれること
睽の卦は、和合が難しく、正攻法が通りにくい局面を示します。しかしそれは完全な断絶を意味しません。重要なのは「どう一致するか」ではなく、「ズレたままでも道を保つ」ことです。相手を正そうとして対立を深めず、自分を曲げて道を失わず、必要なだけの距離を取りながら、誠意と節度で関係を繋ぎ直す。睽は、そのための“退き方・損し方・譲り方”を要求します。
四爻は、睽の中で孤立を深めやすい位置にありながら、なお「元夫」に遇い、互いに孚(まこと)して咎を免れる道を示します。すなわち、孤を破る鍵は、強さではなく、己を損して和する謙徳にあります。
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◆ 四爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「睽(そむ)きて孤(こ)なり。元夫(げんぷ)に遇(あ)いて、こもごも孚(まこと)す。厲(あやう)けれども咎(とが)なし。」
【象伝】
「こもごも孚(まこと)し、咎(とが)なきは、志(こころざし)行(おこ)なわるるなり。」
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● 解釈
「睽きて孤なり」とは、背きが進んで孤立が濃くなる象です。これは、とりわけ初爻との不応によって、こちらの正しさが通りにくく、また周囲からも疎まれやすい状況を含みます。ここで正面から打開を図れば、睽の勢いに逆らってかえって傷つきやすい。
しかし四爻は、「元夫に遇いて、こもごも孚す」と続きます。元夫とは、古い縁・本来結ぶべき相手・正に復る相手を指し、ここに“復帰”と“和合の回復”の芽があります。ただし、その回復は、力で押し切って得るのではありません。爻の趣旨は、変じて損の道へ向かうこと、すなわち己を損して謙徳を尚び、欲や我を減じて相手に通路を与えることにあります。
「厲けれども咎なし」は、局面自体は危うく、過失を招きやすい兆があることを示しつつ、処し方さえ誤らなければ、咎を避け得るという断です。象伝の「志行わるるなり」は、互いに孚す(誠を交わす)姿勢が貫かれるなら、孤の閉塞がほどけ、目指すところ(志)が実行へ移りうることを明らかにしています。つまり、この爻の核心は、孤立を力で破るのではなく、損を受け入れてでも誠と節度を守り、和に転ずるところにあります。
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◆ 含まれる教え
この爻が示す教訓は明確です。
•孤立と不満が増す時ほど、強硬策は効かない
•打開の鍵は「自我を改める」か「損を諦めて欲を離れる」ことにある
•誠意は有効だが、誠意だけで押し切ろうとせず、損失や譲歩も覚悟する
•睽の危うさは消えないが、処し方によって咎を避けうる
•隠忍自重が、結果として“志を行う”道を開く
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◆ 仕事
運気としては、相談相手や腹心の部下に恵まれにくく、孤軍奮闘になりやすい象です。積極策で突破しようとしても効果が薄く、むしろ疲弊や損失を増やしがちです。新規の企てや副業的計画、始めたばかりの案件は、速やかに見合わせて旧に復するか、本業専一へ戻す判断が要ります。ここでの「元夫に遇う」は、原点回帰・基本へ立ち返る・古い縁や既存の枠組みに復することに重なります。
また、交渉や調整ごとは滞りやすく、握りにくい局面です。ただし、誠意をもって根気よく継続すれば、相手の応和を得る可能性はあります。その代わり、現行方針の修正や、一定の譲歩・損失の覚悟を求められることが多い。強さで勝つのではなく、損して道を通すのが、この爻の仕事運の要諦です。
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◆ 恋愛
恋愛・婚姻は、まとまり難く、たとえ無理にまとめても円満を得にくい象です。孤の気配が濃く、互いに背いて小さな齟齬が積み重なりやすい。ここで性急に決着を求めるほど、睽の反発が強まります。
ただし、この爻は復縁に最も吉、再縁にも吉占と見ます。「元夫に遇う」は、離れた縁が“本来のところへ戻る”可能性を強く示します。鍵は、正しさの主張ではなく、互いに孚す(誠を交わす)こと、そして自我を損してでも譲れる部分を譲り、和へ転ずる姿勢です。危うさ(厲)は残るため、関係修復は“勝ち負け”ではなく“志を行う=続けられる形”へ整えることが肝要になります。
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◆ 火沢睽(四爻)が教えてくれる生き方
四爻が教える生き方はこうです。
「孤を憂えて強く出れば、さらに睽く。己を損して誠を守れば、危うくとも咎を免れる。」
孤立や不満が募る時ほど、外へ打って出て形勢を変えようとしがちです。しかし睽の時は、力で整合を取るほど反発が増えます。そこで、損を引き受け、欲を離れ、誠を貫く。謙徳の一歩が、結果として志を行わせ、孤をほどきます。背反の只中でも道を失わないために、まず自分の持ち分を削って通路を作る——それが、睽の四爻が示す最も現実的で確かな処し方です。

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