周易64卦384爻占断
216、地火明夷(ちかめいい)上爻
◇ 明夷とは何か?
地火明夷(ちかめいい)は、
大地(坤)の下に火(離)が沈み、
光が外へ出られず、志が傷つけられる「日没の卦」です。
ここで示されるのは、
- 賢者が用いられず、暗愚が上に立つ時
- 正しく進もうとするほど傷つく
- 光は隠して守らねばならない
- 時を待つ忍耐が最も重要
という、烈しい暗黒時代の処し方です。
明夷は光が消える卦ではなく、
光を守るために沈まねばならない“試練の時”
を象徴します。
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◆ 卦全体が教えてくれること
明夷全体が伝えるのは、
- 外界は不正に満ち、暗主が権を握る
- 正しさが通じず、賢者が傷つく
- 光(明智、明徳、聡明)を隠し、忍んで時を待つべき
- 争わず、耐える者のみが後に再興できる
という深い教えです。
上爻は“明夷の極”にあり、
暗愚が頂点に達する地点を表します。
ここに至ると、光を完全に閉ざしてしまうほどの危機が潜んでいます。
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◆ 上爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「明(あきら)かならずして晦(くら)し。初め天に登り、後には地に入る。」
【象伝】
「初め天に登るは、四国を照らすなり。後に地に入るは、則(のり)を失うなり。」
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● 解釈
上爻は 純陰(坤)の極 に位置し、
明夷の闇を作り出した“主魁”を表します。
もし二爻を文王、五爻を箕子に当てれば、
上爻はまさに殷の暴君・紂王に相当すると解釈できます。
爻辞の前半
「明かならずして晦し」
は、暗愚が極まり、自身の暗さすら理解しない姿。
「初め天に登り、後には地に入る」
は、
- 初めは勢いよく天に昇る太陽のように権勢を誇る
- しかし後には日没のように急速に没落する
という道の成り行きを描きます。
象伝の
「四国を照らす」
は、一時的には天下を圧するほどの勢いがあること。
「則を失う」
は、その後、道義を完全に失い自滅すること
を示しています。
つまり上爻は、
「暗愚が極まり、隆盛から没落へ転ずる最終段階」
を象徴します。
そして、この闇を作り出した張本人であることから、
明夷の構図が最も鮮明に現れる爻でもあります。
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◆ 含まれる教え
上爻が示す教訓は明確です。
- 勢いと権力に酔えば必ず滅ぶ
- 不義に基づく成功は長続きしない
- 道を失った者は、自らの手で自らを沈める
- 盛運の頂点にはすでに没落の芽がある
- 顕在化した成功より、内なる明徳こそが永続の力
また、自らの行いによる反作用(因果)を受ける兆しが強く、
まさに“没落の直前” の象を帯びています。
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◆ 仕事
仕事面では極めて険しい兆しです。
- 実力以上の地位を得てしまい維持できない
- 権威・権力を振りかざしていた人ほど没落しやすい
- 外面は華やかでも内実が崩れ始めている
- 組織・事業・立場が大きく揺らぐ
- 今の計画は長続きせず、中断・解体の危険
ここで最も重要なのは、
すぐに手を引き、守りに転じること。
深追い・拡大・突破はすべて凶。
始めたことは“日の暮れぬうちに”
つまり、手遅れになる前に切り上げる必要があります。
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◆ 恋愛
恋愛では凶象が強く出ます。
- 表面は華やかに見えても、内側は不誠実・隠し事が多い
- 相手の体裁に惑わされやすい
- のちに「欺かれた」と感じることが多い
- 調和よりも衝突や不信が強まる
男女ともに、
今の縁は避けるべき という兆しが濃厚です。
特に相手の魅力や地位・経済力に惹かれて進むと、
後で深い後悔を招きやすいと解します。
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◆ 地火明夷(上爻)が教えてくれる生き方
上爻が告げる人生の警告は鋭く、そして重いものです。
「盛運の頂点にいる時こそ、没落は始まっている。」
- 力・地位・名声は永遠ではない
- 道を失えば、どれほどの勢いも長続きしない
- 引くべき時を誤れば、大きく失う
- 欲や怒りで動けば破滅を招く
- 謙遜・退守・冷静さが唯一の救いとなる
光が完全に沈んだように見えても、
それは “新たな始まりの前の沈黙” であるとも解釈できます。
今は深く省みて、
過ちを清算し、
次に来る“新しい明”へ備える時なのです。


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