周易64卦384爻占断
194、天山遯(てんざんとん)2爻
◇ 遯とは何か?
天山遯は「退く」「避ける」「身を守る」を核心に持つ卦です。
天(乾)の剛が遠ざかり、山(艮)が内で止まる。
大きな力・強い者を正面から受ければ傷つくため、
知恵をもって距離を取り、災いを避けることを教えています。
遯の道とは、
“退くことで国と身を守る”
という深い倫理に支えられています。
それは弱さではなく、時を読む強さでもあります。
◆ 卦全体が教えてくれること
遯の時は、
・君子は退き
・小人は進み
・危険は近づき
・進めば凶
という構造ができています。
しかし、卦の中には
「退くことができない者」
「退いてはならない立場」
が存在します。
二爻はまさにその例外で、
退きたいと思っても退けない。
責務・義務・環境にしばられ、
「動かず守る」ことが最善となる位置です。
◆ 二爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「之(これ)を執(とら)うるに黄牛(こうぎゅう)の革(かわ)を用(もち)う。之(これ)を勝(あ)げて説(と)く莫(な)し。」
【象伝】
「執(とら)うるに黄牛(こうぎゅう)を用(もち)うるは、志(こころざし)を固(かた)くするなり。」
● 解釈
黄牛の革とは、
・黄=中央=中正
・牛=陰=柔順
の象です。
二爻は陰で陰位、中正を具えており、
柔順ながら芯があり、ぶれない位置にあります。
「黄牛の革で縛る」とは、
柔らかいが強靭で、決して容易に解けない拘束。
これは外から縛られているだけではなく、
自らもその職責に殉じようとする忠誠の象 です。
遯の時にあっても、
王(五爻)に応じて直接民に接し、世務を担う立場。
たとえ世情が乱れ、君子が山中に退いたとしても、
この位の者まで逃げては民が乱れ、国が崩れる。
だからこそ二爻は
退かず、任務を守り、耐えて職を全うする
それが「黄牛の革」の象意です。
◆ 含まれる教え
- 責務に縛られても、その拘束がかえって身を守る
- 動きたい誘惑に負けず、旧事を守ることで災いを避けられる
- 正しい義務から逃げれば、かえって大きな失敗を招く
- 「耐える中に安定がある」時期
二爻は、
退きたいが退けない時ほど、心を固く、場所を守れ
という教えです。
◆ 仕事
仕事運は 「現状維持こそ最善」 の時です。
- 新規事業は失敗する
- 職務から逃げると混乱を生む
- 自由が効かない
- 手を広げるより、守る方が数倍良い
今は、
・古い案件
・既存の職務
・積み重ねてきた担当範囲
を愚直に続けることが必要になります。
能動的に動くほど凶を呼びますので、
守りを固める姿勢を強めるべきです。
◆ 恋愛
恋愛では 束縛・制限・離れにくさ の象が出ます。
- 自由がきかない
- 切りたくても切れない縁
- 古い関係に縛られやすい
- 腐れ縁化して抜け出しにくい
新しい出会いは不適。
古い関係に引き戻されやすい傾向。
ただし、
「逃げずにきちんと向き合う」
という姿勢が吉に転じることもあります。
◆ 天山遯(二爻)が教えてくれる生き方
二爻は静かに語りかけます。
「逃げられぬ時には、志を固くし、任務を守れ。」
人生では
逃げたいのに逃げられない局面があります。
家庭、仕事、責任、役目、環境――
黄牛の革のように、自分を縛る要素がある。
しかしその拘束は、
あなたを滅ぼす枷ではなく、
あなたを守る “義” のつながり でもあります。
逃げれば乱れ、
逃げれば災いを呼び、
守れば安定が訪れる。
遯(二爻)は、
「退くべき時でも、退いてはならぬ者がいる」
その深い倫理を示しているのです。

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