周易64卦384爻占断
193、天山遯(てんざんとん)初爻
◇ 遯とは何か?
天山遯(てんざんとん)は「退く」「遠ざかる」「身を引く」を象徴する卦です。
天(乾)の剛健が上に去り、山(艮)の止まる力が内にあります。
退くとは、敗北ではありません。
むしろ 時を読む智慧 であり、
悪い気運・危険・害意と距離を置き、
自分を守り、次の好機に備える戦略です。
遯は
「慎んで退くことが、最も強い前進となる時」
を示す卦でもあります。
◆ 卦全体が教えてくれること
剛が上に去り、柔が下に残る配置は、
強い者が引き、弱い者が後に残る形。
これは
“正面から向かえば傷つき、退けば安全”
という天地のメッセージです。
遯の時は
・偉い人を避けて吉
・争いを避けて吉
・無理に進めば凶
という構造が卦そのものに刻まれています。
初爻はその遯の一番はじめ。
まだ退ききれておらず、危険の影を踏んでいます。
◆ 初爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「遯尾(とんび)厲(あやう)し。往(ゆ)く攸(ところ)有(あ)るに用(もち)うる勿(なか)れ。」
【象伝】
「遯尾(とんび)の厲(あやう)きは、往(ゆ)かざれば何(なん)の災(わざわ)いあらん。」
● 解釈
「尾」とは本来、終わり・後方にあるべきもの。
しかし遯は “逃げていく卦” なので、
初爻が位置する「手前」に尾が来ている状態になります。
これは
逃げ遅れている象(かたち)。
さらに追ってくる二爻がすでに前にいるため、
初爻は危険の気配を背後から受けています。
つまり
危険はすぐそこまで来ているが、まだ被害は出ていない状態。
進めば災いに遭うが、
進まず留まれば難から免れる。
これが
「往く攸あるに用うる勿れ」
象伝の
「往かざれば何の災いあらん」
という警告の意味です。
この爻は
“何もしなければ無事、動けば凶”
という非常に明確な戒めなのです。
◆ 含まれる教え
- 危険が迫っているときは、まず止まることが最善
- 無理に動けば、必ず損失・失敗・災いを受ける
- 小事に手を出しても破れる
- 誘いに乗れば失敗し、辞退すれば無事
- 「退く勇気」と「引き返す判断」が命を救う
遯の初爻は、
“動かないことで全てが守られる時” を示します。
◆ 仕事
仕事運は 慎重第一 です。
- 予算違い
- 手当の不足
- 時期の読み違い
- 計画の破綻
などが起こりやすく、
手を出すほど失敗が増える時期となります。
事業では、新案件・新計画・投資・拡張など
すべて 見合わせるべき。
消極策こそが最大の防御です。
「何もしない勇気」が必要です。
◆ 恋愛
恋愛においては 不調・不縁 の象です。
- 相手に近づくと災いが起きる
- タイミングが悪い
- 出会い運が停滞気味
- 無理に進めると破れやすい
ただし一つだけ特例があります。
婚期を過ぎた女性の場合、意外に良縁となる場合がある
という古伝の解釈があります。
とはいえ、基本的に
「焦らず、進まず、距離を置く」
これが最善です。
◆ 天山遯(初爻)が教えてくれる生き方
初爻はこう語っています。
「危険に近い時こそ、動かず、退け。」
人は追い詰められると、
つい何か手を打たなければと焦ります。
しかし遯の道はこう教えます。
- 動けば傷つく時がある
- 止まることが、最も賢い前進になる
- 無理に道を切り開くより、退いた方が助かる
逃げ遅れた尾が危険を感じて震えている時こそ、
静かに、そっと、足を止める。
その一歩の慎みが、
あなたを災厄から守ってくれる――
それが遯の初爻の深い教えです。


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