周易64卦384爻占断
185、沢山咸(たくざんかん)5爻
◇ 咸とは何か?
咸は「感じる」「心が動く」「相手に影響される」という象をもつ卦です。
人と人、あるいは外界と内面が響き合うとき、
心は柔らかく、動きやすく、そして揺れやすくなります。
しかし、感応の働きは善にも悪にも向けられる性質があり、
その方向を誤れば自他ともに害となります。
咸の卦はこう告げます。
「心が動くままに走らず、
どこへ向けて感応するかを慎重に選べ。」
感情や直感を禁止するのではなく、
“正しい対象に向けて感じる” ことを求める卦なのです。
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◆ 卦全体が教えてくれること
咸は「足から頭まで、すべてが感じる」卦ともいわれます。
卦中に特定の主爻がなく、全身が感応しやすい構造です。
そのため、
心が不安定になりやすく、
周囲の言葉・状況・雰囲気に流されがち。
だからこそ咸は「慎み」が大切となり、
己の中心を保つことが吉へつながります。
五爻は「背中の上部」に当たる位置で、
ここは身体の中でも 最も感じにくい場所。
すなわち、咸の中で「不感」の象がもっとも強く表れます。
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◆ 五爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「其の脢(せじし)に咸ず。悔い无し。」
【象伝】
「其の脢に咸ずるは、志未なり。」
■ 解釈
● 脢(せじし)とは何か?
脢とは「背の上部」、肩甲骨付近を指します。
ここは人体の中でも反応が鈍く、
触れられても“感じにくい”部分です。
咸という卦は「感じること」がテーマですが、
五爻は “ほとんど感じない” 位置に当たります。
これは、
- よくも悪くも外の刺激に動かされない
- 無欲で、私情に振り回されにくい
- 心が乱れない
という穏やかさがある反面、
- 志が小さい
- 情熱に欠ける
- 大局観や主体性に乏しい
という弱点も抱えます。
象伝の
「志未なり」
とは、
「君位にありながら、志がまだ大きく開けていない」
という批判的な意味なのです。
● 「悔い无し」だが「吉」とは言わない理由
五爻は本来、君主の位置。
しかし、この五爻は陰柔であり、
しかも身体の“最も感じない”脢の象。
そのため、
・正しくない相手に感応して誤る
・激情に走る
・情に流される
といった咸の危険を避けることはできます。
これが 「悔い无し」 の理由。
しかし、
「吉」とは言わない。
なぜなら、
- 無難ではあるが、志が狭く伸びない
- 現状維持に終始し、大成しにくい
- 君位としての働きが弱い
そんな「小さくまとまりすぎる」姿だからです。
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◆ 含まれる教え
- 感情に乱されない“無欲の安定”は、一つの強さ
- しかし、志が小さくなると道が開けない
- 動けば誤る時期、守れば悔いはない
- 無理に進まず、静かに時を待つことが好結果をもたらす
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◆ 仕事
五爻を得たときの仕事運は、
「無難に保てば良いが、発展は望みにくい」 という時です。
- 動けば破綻しやすい
- 急拡大・新規プロジェクトは不可
- 焦って改革に手をつけると失敗
- 現状維持がもっとも賢明な姿勢
という暗示が強く出ています。
また、
- 交渉や条件交渉が遅れる
- 相手の動きが鈍い
- こちらから攻めると破れやすい
ため、
急がず、静観し、位置を守る
という対応が最適です。
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◆ 恋愛
恋愛・婚姻についても、
五爻は“鈍い・動かない”象が強く出ます。
- 話が進まない
- 盛り上がりに欠ける
- 気持ちが通じにくい
- 婚期が遅れやすい
といった状況になりやすい時期です。
また、無理にまとめたとしても、
- やや冷えた関係
- 心の交流不足
- 相手との距離感が縮まりにくい
といった問題が残りやすいので、
見合わせた方が無難 という判断になります。
焦って行動すると運気を損ねるため、
慎重に、時間をかけて見極めることが大切です。
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◆ 沢山咸(五爻)が教えてくれる生き方
五爻の教えは静かで深いものです。
「感じにくいときは、無理に動くな。
心が動かぬ時は、動こうとする必要もない。」
“不感”は悪いことではありません。
外界に振り回されず、私欲にも乱されず、
静かに自分の位置を守れる――
これは一つの“徳”とも言えます。
しかし、同時に五爻はこうも教えます。
「無難で終わることが最善ではない。
本来あるべき志を忘れてはならない。」
焦らず、しかし怠らず。
守るべきものを守りつつ、
志の灯火を絶やさぬように静かに育てる。
それが、
五爻が示す“咸の正しい生き方”なのです。

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