周易64卦384爻占断
173、坎為水(かんいすい)5爻
◇ 坎とは何か?
坎為水(かんいすい)は「水」を象徴し、危険・困難・試練を意味します。
水は一見柔らかくとも、その性は強く、あらゆる障害を穿ち、どんな地形にも順応して流れます。
その姿は、人生における困難を越える柔軟な力と、誠実な忍耐を教えています。
上下ともに坎である「重坎(じゅうかん)」は、
危険が二重に重なった状態であり、困難の極にあることを示します。
しかしその中にあってこそ、人は信念と徳を磨き、
真の安定を得るための力を培うことができるのです。
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◆ 卦全体が教えてくれること
坎の卦は、「危険を恐れず、道を守り抜け」という教えを持っています。
試練の時ほど、心を静め、誠を失わず、内に中正の徳を保つことが求められます。
急いて行動すれば沈み、焦れば誤りを重ねる。
しかし、静かに努力を積み重ねれば、
水が地を潤すように、やがて道が平らかに開けるのです。
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◆ 五爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「坎(あな)盈(み)たず。既(すで)に平(たいら)かなるに祇(いた)る。咎(とが)なし。」
【象伝】
「坎(あな)盈(み)たざるは、中(ちゅう)未(いま)だ大(おお)いならざればなり。」
解釈:
第五爻は坎為水の主爻であり、剛中の徳を備えてこの卦全体を司る位置にあります。
すなわち、危機の時代にあって、民を済い、世の混乱を鎮める責任を担う存在です。
爻辞の「坎盈たず」は、坎(危険)の穴が満ちきっていない、すなわち、
困難がまだ完全に終わったわけではないことを示しています。
しかし同時に、「既に平かなるに祇る」とあるように、
長い苦難を経てようやく平穏へと至る兆しが見えています。
象伝の「中未だ大ならず」とは、
この剛中の徳はいまだ十分に発揮されておらず、
危機を鎮めはしたが、まだ人々を楽しませるまでの力は至っていないという意味です。
したがってこの爻は、
「ようやく困難を脱しつつあるが、まだ完全な安定ではない」
という微妙な均衡の時を表しています。
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◆ 含まれる教え
- 困難を脱しても油断せず、慎みを守れ。
- 安定は、静かなる努力の上に築かれる。
- 徳がまだ充分に備わらぬうちは、無理に大事を行わぬこと。
- 小さな平穏を大切に育てる心が、真の成功を呼ぶ。
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◆ 仕事
この爻を得た時は、長く続いた艱難がようやく和らぐ時です。
障害は徐々に取り除かれ、安定への道が見え始めます。
しかし、まだ完全に立ち直ったわけではなく、油断は禁物。
事業では、旧債や懸案事項の整理が進み、
ようやく基礎が固まり始める時です。
ただし、新しい挑戦や拡張を行うのは時期尚早。
「坎盈たず」とあるように、力を出し切ることなく、
実力の七、八分に抑えて行動するのが最も良いでしょう。
勤め人であれば、これまでの努力が上司に認められ、
小さな昇進や信任を得る時。
焦らず地道に積み上げていけば、さらなる安定が訪れます。
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◆ 恋愛
婚姻や恋愛においては、まだ成熟しきっていない段階です。
関係は安定しつつありますが、
環境や周囲の事情など、未解決の問題が残っています。
焦って結論を出すよりも、誠実な努力を続け、
相手との信頼を育てることが肝心です。
「祇る」とあるように、やがて心が平らかに通じ合う時が来ます。
辛抱を重ねていけば、良縁を得る可能性は高く、
長い時間をかけて築かれた愛は、後に安定をもたらします。
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◆ 坎為水(五爻)が教えてくれる生き方
この爻が教えるのは、「困難を越えた後こそ、慎みと調和を忘れるな」という生き方です。
水が満ちすぎれば溢れ、欠ければ干上がる。
人の心もまた、度を越せば傾きます。
平穏を得た後にこそ、静かに中を保ち、
調和の流れを乱さぬことが大切です。
すでに坎の底を脱し、光を見たあなたに、
今求められるのは「謙虚に安らぎを守る智慧」。
それこそが、この爻が示す“咎なき道”なのです。

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