周易64卦384爻占断
172、坎為水(かんいすい)4爻
◇ 坎とは何か?
坎為水(かんいすい)は、困難と試練を象徴する卦です。
水が流れながらもその形を失わず、深き谷間をも越えて道を求めるように、
この卦は「危険の中にも誠を貫く強さ」を教えています。
坎が重なる「重坎(じゅうかん)」は、外にも内にも危険がある状態。
しかし同時に、それは「誠の力が試される時」であり、
静かに耐え、信を通じて危難を解くことができる時でもあります。
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◆ 卦全体が教えてくれること
坎の卦は、「危うき時ほど誠を尽くせ」という教えを示します。
苦境にあっても、外の華やかさに惑わされず、内なる真実を守ること。
その誠が通じた時、たとえ困難の中でも、思いが形を成します。
外面的な形式や体裁を捨て、心をもって人と通じることが、
この卦が最も重んじる「道」です。
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◆ 四爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「樽酒(そんしゅ)簋貳(きじ)、缶(ふ)を用(もち)う。約(やく)を納(い)るるに牖(まど)よりす。終(つい)に咎(とが)なし。」
【象伝】
「樽酒(そんしゅ)簋貳(きじ)は、剛柔(ごうじゅう)際(まじわ)ればなり。」
解釈:
この爻では、さまざまな器物の名をもって、「質素で誠実な交わり」を象徴しています。
樽酒は神前に供える清らかな白木の酒樽、
簋は竹で編んだ器で、穀物を盛るもの。簋貳とは、副え物を添えた意です。
缶(ふ)は素朴な瓦器で、飾り気のない実用の器を示します。
「樽酒簋貳、缶を用う」は、華美を避けて、質素な真心をもって供えることを表し、
それを「約(やく)」、つまり簡略で誠のこもった礼と呼びます。
しかも、その約礼を「牖(まど)よりす」とあるように、
正面の門からではなく、格子窓の隙間から差し入れるような、控えめで内密な方法を取ります。
この爻は、五爻(君位)に誠を通じて危難を和らげようとする立場にありますが、
状況が厳しく物質的にも乏しいため、形式的な手順を踏むことができません。
それでも、誠の心が通じれば、「終に咎なし」となる。
象伝の「剛柔際わればなり」とは、剛(五爻)と柔(四爻)が互いに心を通わせ、
表の形ではなく、内なる真意で結びつくことを意味します。
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◆ 含まれる教え
- 形式より誠意を重んじよ。
- 見えないところで尽くす心が、真の通じ合いを生む。
- 誠実さは、貧しくとも光を放つ。
- 外見の派手さではなく、内なる信が人を動かす。
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◆ 仕事
この爻を得た時は、裏方の努力が実を結ぶ時期です。
表立って働きかけるよりも、内密に、控えめに動く方が効果的です。
就職・交渉・事業などでは、正面突破よりも、
間接的なアプローチ――たとえば、紹介や縁故、信頼関係を通じた働きかけ――が功を奏します。
ただし、贈賄や裏工作など、不正な手段を用いるのは凶。
「缶を用う」とあるように、質素で誠実なやり方を守ることが肝要です。
運気としては、これまでの困難が少しずつ解け、
ようやく光が差し込み始める時。
しかし、まだ完全には脱していないため、調子に乗らず慎重に行動すべきです。
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◆ 恋愛
恋愛や婚姻では、内密な関係や秘めた想いを表します。
表立っては言えない事情があり、周囲に知られないまま関係が続くことも。
しかし、「終に咎なし」とあるように、誠実な心を貫けば、
たとえ形式を欠いても悪い結果にはなりません。
変卦の「沢水困」にも見られるように、
女性が献身的に支え、男性がその誠に報いる関係が好ましい。
ただし、不倫や不正な関係では凶。
誠を欠く恋は、信頼を失い破滅に至ります。
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◆ 坎為水(四爻)が教えてくれる生き方
この爻が教えるのは、「困難の中でも、誠の光を届けよ」という生き方です。
真心は、たとえ壁の向こうにあっても、窓の隙間から光のように届くもの。
形式や見栄を捨て、誠だけで相手と向き合えば、
どんな境遇でも心は通じます。
人生の艱難の中にあっても、
静かに誠を尽くすこと――それが、坎の水を清める唯一の道です。
陰にあって光を届ける者、それがこの四爻の人の姿なのです。

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