周易64卦384爻占断
169、坎為水(かんいすい)初爻
◇ 坎とは何か?
坎為水(かんいすい)は、「水」を象徴し、困難・危険・試練を意味する卦です。
上下ともに坎(水)で、これを「重坎(じゅうかん)」と呼びます。
つまり、困難の上にさらに困難が重なる象です。
しかし坎は、ただ苦難を示すだけではありません。
その中にあってなお正道を守り、誠を貫くことを教える卦です。
水がどんな地形にも順応して流れるように、柔軟さと忍耐をもって危険を乗り越える姿を理想としています。
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◆ 卦全体が教えてくれること
坎の卦が伝えるのは、「危うき時ほど、誠を守れ」という教えです。
外に安易な道はなく、内には恐れと不安が渦巻く。
しかし、その中でこそ、人の真価が問われます。
恐れを恐れず、焦らず、慎みをもって道を踏み外さないこと。
誠実な心と節度ある行動が、困難を脱する唯一の道となります。
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◆ 初爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「習坎(しゅうかん)、坎窞(かんたん)に入(い)る。凶(きょう)。」
【象伝】
「習坎(しゅうかん)、坎(かん)に入(い)るは、道(みち)を失(うしな)いて凶(きょう)なり。」
解釈:
「習坎」とは、困難が重なり、危険が常態化していること。
坎はもともと「穴」を象徴しますが、ここでは穴の中にさらに穴がある――つまり「窞(たん)」の状態です。
この初爻は卦の最下位にあり、まさにその穴の底の底に落ち込んでいるような位置。
そこから抜け出す手立てはなく、まさに「道を失いて凶なり」といわれる所以です。
社会的にいえば、法律や規律を犯して自ら苦境を招いた状態でもあります。
坎は刑罰を象徴する面を持ち、重なる坎は重罪の意。
一度の過ちを改めることなく、再び誤りを重ねる――そんな状況を暗示しています。
応爻(四爻)も陰で力なく助けにならず、比爻(二爻)は陽であっても自らを支えることで精一杯。
ゆえに、この初爻には救いの手が届かないのです。
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◆ 含まれる教え
- 苦難の底では、もがかず静かに時を待て。
- 道を失ったときこそ、誠を取り戻す契機となる。
- 欲望や執着を捨て、謙虚に己を見つめ直せ。
- 焦りはさらなる破滅を招く。慎みと沈黙が救いとなる。
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◆ 仕事
この爻を得た時は、すべてが行き詰まる時期です。
努力しても結果が出ず、むしろ動くほど悪化します。
新しい事業や拡張、転職、投資はすべて凶。
いまは「進まず、守る」ことが最善です。
節約を心がけ、損を覚悟で退く方が、長い目で見て安全です。
信頼できる人の助言があっても、すぐに行動せず慎重に時期を待ちましょう。
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◆ 恋愛
婚姻・恋愛においても凶。
「道を失いて凶」とあるように、道ならぬ関係――不倫・三角関係・依存的な恋――に陥りやすい暗示です。
たとえ情熱的でも、社会的な承認を得られず、結果は苦しみを招きます。
また、生活の基盤や心の安定を失う危険があります。
恋の迷いに沈みこむほど、出口が見えなくなる時です。
潔く距離を取り、心を静めることが、自らを守る第一歩です。
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◆ 坎為水(初爻)が教えてくれる生き方
この爻が示すのは、「底にあって、なお己を見失うな」という生き方です。
どん底は、すべてを失った場所ではなく、
余計なものをそぎ落とし、
本当の自分と向き合う場所でもあります。
焦って抜け出そうとすれば、さらに深みに沈む。
しかし、静かに心を鎮め、正道を見つめ続けるなら、
やがて夜明けの水の流れが新しい道を開くでしょう。
坎の底にこそ、次の光の源が眠っているのです。


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