周易64卦384爻占断
162、山雷頤(さんらいい)上爻
◇ 頤とは何か?
山雷頤(さんらいい)は「養う」「育む」という意を持ちます。
上卦は山(艮)で「止」、下卦は雷(震)で「動」。
動静の調和を通じて、人が何を取り入れ、何を慎み、いかに己と他を養うかという人生の根本を教える卦です。
頤(おとがい)は口の象であり、単に食を摂るというよりも、心・徳・知恵・人間関係などの「精神的栄養」を正しく扱うことを意味します。
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◆ 卦全体が教えてくれること
頤の卦は「正しい養い」と「正しい依りどころ」を示しています。
己の力や知を誇るのではなく、天の理に順って他を活かし、己も養うという姿勢が求められます。
上に立つ者は徳によって人を育み、下にある者は誠によって恩を受ける。
これが頤の道であり、すべての「養いの循環」を成り立たせる根本です。
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◆ 上爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「由(よ)りて頤(やしな)う。厲(あやう)けれども吉。大川を渉(わた)るに利ろし」
【象伝】
「由りて頤う、厲うけれども吉は、大いに慶びあるなり。」
解釈:
上爻は頤の成卦主(せいかしゅ)であり、天下の民を養う最高位の象です。
「由りて頤う」とは、天下の者がこの爻によりて養われる、すなわち多くの者がこの人物に依存し、信を寄せるという意味です。
しかし、この位置は天に近く、非常に危うい地位でもあります。
頼られる者が増すほど、その力は君を凌ぐように見え、嫉妬や誤解を招きやすい。
これが「厲(あやう)けれども吉」と言われる所以です。
とはいえ、この上爻の「養い」は私利私欲のためではなく、純粋に人々のため。
自らの功を誇らず、自然に人を支える徳があるために、たとえ危うくとも最終的には「吉」となります。
また「大川を渉るに利ろし」とは、
危険を恐れず大きな試みに挑む時でも、徳をもって臨めば成功することを示します。
この上爻の徳が厚く、人々の信頼を得ているゆえに、難事も成るのです。
象伝の「大いに慶びあるなり」とは、
その徳が広く人々に慶びをもたらす――まさに理想的な養いの完成を意味します。
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◆ 含まれる教え
- 徳による信望は、人を支える力となる。
- 私心を離れた養いは、危うさを超えて吉を得る。
- 上に立つ者ほど謙虚であれ。驕れば凶、慎めば吉。
- 「大川を渉る」――大きな試練こそ、真の徳を示す舞台。
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◆ 仕事
この爻を得た時の仕事運は、信頼と責任が一身に集まる時です。
人からの依頼や相談が多く、重責を担うことになります。
最初は厄介に感じても、誠実に取り組むことで大きな成果を上げ、名誉を得るでしょう。
ただし、周囲の支持や名声に甘んじて驕ると、一瞬でその信望を失います。
常に初心を忘れず、「人のために尽くす心」を保つことが成否を分けます。
また、この爻には「大川を渉るに利ろし」とあるように、
長く準備してきた大事業・転換期・挑戦に取り組む好機でもあります。
正しい志と方法であれば、難関も突破できる時です。
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◆ 恋愛
婚姻や恋愛においては、責任・献身・信頼がテーマです。
人から頼られる関係や、支え合いの中で絆が深まる吉相。
ただし、見返りを求めない愛が幸運をもたらす反面、
見栄や過信が混じると、信頼を失う危険もあります。
変卦は「地雷復(ちらいふく)」となり、
これは「やり直し」「再生」「旧縁の復活」を示すため、
再婚や再出発の縁、あるいは家族の事情を含んだ結びつきに吉があるとされます。
特に、弟妹や親族の面倒を見るような婚姻・同居などは、幸福を得やすい時です。
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◆ 山雷頤(上爻)が教えてくれる生き方
この爻が教えるのは、
「人を養うとは、己を忘れて徳を行うこと」という真理です。
多くの者に頼られ、時に重責を担いながらも、
私欲を交えず、公のために尽くす姿こそ、真の頤の完成。
危うさを恐れず、信念を貫けば、
やがてその行いは人々の喜びとなって返ってきます。
「由りて頤う」――人があなたを頼る時、
それはあなたが既に人を養う徳を備えている証です。
その徳を磨き、慎み深く用いること。
それが、頤の上爻が示す養いの極致です。

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