周易64卦384爻占断
159、山雷頤(さんらいい)3爻
◇ 頤とは何か?
山雷頤(さんらいい)は「養う」「育む」を意味します。
上卦は山(艮)で止まり、下卦は雷(震)で動く。
動静の調和を通じて、人が何を摂り、何を拒み、何をもって己と人を養うかという道を示します。
頤(おとがい)は口を象り、単なる飲食だけでなく、心・徳・学び・関係性を正しく養うことの重要性を説いています。
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◆ 卦全体が教えてくれること
頤の卦は、正しく養い、正しく養われることを示しています。
欲にまかせて誤った対象に依存すれば、道を外れ、内も外も損なう。
逆に、節度を保ち、己の位に応じて養えば、長く豊かな実りを得る。
養いは、分を知るところから始まる。
それが頤の中心的な教えです。
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◆ 三爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「頤(やしな)いに拂(もと)る。貞くすれば凶。十年用うる勿れ。利しき攸なし。」
【象伝】
「十年用うるなかれとは、道大いに悖(もと)ればなり。」
解釈:
三爻は陰であり、自らを養う資を持たぬため、他に求めようとします。
しかし「頤に拂る」とあるように、その養い方が完全に正道から外れている状態です。
二爻ではまだ迷いの中にありましたが、三爻ではすでに頤養の道に背き切ってしまった段階にあります。
三爻は五爻(君位)と同じく陰で、応にも比にも当たらず、しかも上爻(陽)と応位を結びます。
そのため、正しい君(五爻)を仰がず、より利得のありそうな上爻へと心を傾け、
「食のために道を忘れる」という姿勢を取ります。
象伝が「道大いに悖る」と説くように、これは倫理の根を失い、
一時の利益のために正しい道を踏み外す危険を示します。
「十年用うる勿れ」は、たとえ年月を重ねても、この道に立つ者は信用・登用されぬという意味。
「利しき攸なし」は、どんなことをしても報いを得られない、という断絶の警告です。
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◆ 含まれる教え
- 養いの根本を誤るな。 道を外れた養いは、長く禍を引く。
- 自己中心的な正しさ(貞)も凶。 貞を守っているつもりでも、道に拂えば逆効果。
- 利得や依存を目的とする養いは無益。 「十年用うる勿れ」――誠意なき努力は実を結ばぬ。
- 徳を養うには、正しい方向性を選ぶ心の眼が必要。
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◆ 仕事
この爻を得た時の仕事運は、誤った方針や人物に従う凶相です。
本来進むべき道を忘れ、世間の風評や利益追求に引きずられると、
苦労が多い上に成果が得られません。
「十年用うる勿れ」は、長期的に見てもその選択は報われないという意味。
自分の信念が偏屈さとなって周囲から理解されず、悪評を受けやすい時です。
交渉・訴訟・事業拡張はすべて見合わせるに限ります。
力不足の中で焦って動けば、進退両難に陥ります。
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◆ 恋愛
婚姻・恋愛においても「利しき攸なし」。
相手選びを誤り、見かけの魅力や一時の情に流されやすい時です。
相手は言葉巧みでも、誠実に支え合う徳に欠ける可能性が高く、
将来的には養い合うどころか、互いを消耗させる関係になります。
迷いがあるなら、思い切って諦めるのが最善。
今は無理に縁を結ばず、自らを養う時と心得るべきです。
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◆ 山雷頤(三爻)が教えてくれる生き方
この爻が教えるのは、
「正しい養いを忘れ、己の欲や偏見で道を外す愚かさ」への警鐘です。
人は時に、「自分は正しい」と信じて疑わぬがゆえに、かえって道を失う。
それが「貞くすれば凶」という言葉に込められた意味です。
外からの支援を求めるなら、正しい筋を通し、徳のある人を仰ぐこと。
己のための養いが、やがて人をも養う道へ通じる――
その順序を誤らぬことこそ、頤・三爻の教えです。

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