周易64卦384爻占断
155、山天大畜(さんてんたいちく)5爻
◇ 大畜とは何か?
山天大畜(さんてんたいちく)は、「大いに畜(たくわ)える」ことを意味します。
上卦は山(艮)、下卦は天(乾)。
天の強い推進力を山が上から静かに止め、内に力を蓄える象です。
これは、力・徳・知・財を内に畜え、時を待つ姿。
止まるべき時に止まり、進むべき時に備える「慎重なる蓄養の徳」を示しています。
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◆ 卦全体が教えてくれること
大畜の卦は、「勢いを抑えて時を待つ」ことを説きます。
力ある者がその力を節して蓄え、将来の大業に備える――。
その静かな制御こそが、真の強さであり、後の繁栄をもたらします。
焦らず、備え、慎みを守る時です。
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◆ 五爻の爻辞と解釈
【爻辞】
「豶豕(ふんし)の牙(が)。吉。」
【象伝】
「六五(りくご)の吉は、慶(よろこ)び有(あ)るなり。」
解釈:
「豶豕(ふんし)」とは、去勢された豕(いのこ/豚)のこと。
もともと荒々しい性質を持ちながら、穏やかに飼い慣らされて温順になった姿を象徴します。
「牙」は本来、猛りの象徴ですが、ここでは力を内に秘めて外に出さぬことを意味します。
五爻は君位にあり、下の二爻と正応の関係にあります。
二爻は「輿、輹を説く」の爻であり、止まることを心得た柔順の位。
そのため、五爻は統率する側でありながら、相手を抑え込むことなく導く賢明さを備えています。
「豶豕の牙」とは、
力強い部下・勢いある民を無理に縛ることなく、
自然に従わせ、秩序を保たせる象。
その制御の巧みさによって「吉」となるのです。
象伝が「慶び有るなり」とするのは、
このように無理なく順応を得た結果、上下ともに喜びを分かち合うことができるからです。
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◆ 含まれる教え
- 柔をもって剛を制する。 強い者を力で抑えず、徳によって導く。
 - 勢いある部下・事象を無理に動かさず、養い静める。
 - 温順は弱さではなく、制御された力の現れである。
 - 統率には包容と節度が必要。
 
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◆ 仕事
この爻を得た時、仕事運は「統率・調整・安定」の時です。
すでにある程度の地位・実力を持ち、部下や協力者を束ねる立場にあります。
ただし、相手は4爻の時よりも力量があり、容易には従わぬ傾向。
したがって、強く押さえるよりも、温かく遇し、応分の報酬を与えることが吉を呼びます。
部下や仲間をよく観察し、それぞれの働きに応じた誠意を見せること。
そうすれば争いや不満も自然に収まります。
事業はおおむね順調ですが、利益率はやや下がる傾向。
儲けを焦らず、堅実経営を続けることが成功の鍵です。
また、資金や待遇の「配分」に注意を払うと、後の大きな発展に繋がります。
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◆ 恋愛
婚姻・恋愛は温順で安定した縁の象。
相手は柔和で誠実ですが、どこか物足りなさを感じることもあります。
しかしそれは安定と調和の代償であり、長期的には幸福を保ちやすい組み合わせです。
この時期は、周囲の紹介や縁談などがまとまりやすい反面、
他の人への不義理・未整理の関係が尾を引く恐れもあります。
誠実さを保ち、相手を大切に扱うことが吉。
ただし、変じて「小畜」となれば、理想と現実のギャップが生じ、
夫婦や恋人間に意見の食い違い・反目の暗示もあります。
焦らず、節度をもって接すれば避けられる兆です。
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◆ 山天大畜(五爻)が教えてくれる生き方
この爻が教えるのは、「力あるものを、力で制さない智恵」です。
「豶豕の牙」は、去勢された猪――すなわち、
荒ぶる力を静め、柔らかく御することの象徴。
支配とは押さえつけることではなく、理解し導くこと。
威圧ではなく、信頼によって従わせるのが真の統率者です。
大畜の五爻は、大いなる力を抱えつつも、温和をもって治める君子を示します。
剛を柔で包み、勢いを導き、静けさの中に喜びを得る――
これが「元吉」の道です。
  
  
  
  
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