周易64卦384爻占断
31、天水訟(てんすいしょう)初爻
◇ 訟とは何か?
『訟(しょう)』は、「争い」や「訴え」を象徴する卦です。
下卦「坎(水)」は困難や内に秘めた問題、上卦「乾(天)」は強い意志や剛健な行動力を表します。
内に問題を抱えつつ、外には主張を押し通そうとする――この組み合わせは、意見の衝突や紛争を引き起こしやすい状況を示しています。
しかし、訟の卦が伝えるのは、単に争うことではなく、「争いをどう収めるか」が問われていることです。
不必要な対立を避け、道理に従い、適切な時機をもって対処することが、より良い結果を導く鍵となります。
◆ 初爻の爻辞と解釈
【爻辞】
事するところを永くせず。小しく言(こと)有るも、終に吉。
【象伝】
事するところを永くせざるは、訟は長くすべからざるなり。小しく言有りといえども、其の弁明らかなり。
初爻は、まだ訟(争い)が本格化していない段階です。
爻辞が「訟」ではなく「事」と表現しているのは、問題が小さく、まだ言い争いというよりは不一致や軽い対立程度であることを示しています。
争いを長引かせず、さっと身を引く――それがこの爻の徳であり、美点です。
「小しく言有る」は、多少言葉を交わすことはあっても、感情的な対立ではなく、道理のある説明が可能であるということ。
「弁明らか」とは、自分の立場を冷静に説明できること、またそれが相手にも理解されやすいことを意味しています。
◆ 含まれる教え
この爻が教えているのは、「争いの芽は早いうちに摘むべきである」ということです。
問題が小さいうちに対処すれば、こじれることなく収束させることができます。
理にかなった意見であっても、争いを長引かせるのは賢明ではありません。
勇気ある沈黙、もしくは節度ある主張によって、誤解や衝突を避けることが肝心です。
争いを制するのは力ではなく、時に応じた謙遜と判断力なのです。
◆ 仕事
仕事上では、小さな意見の違いや判断のすれ違いが生じやすい時期です。
部下や同僚との意見が食い違ったり、プロジェクトの方針で異論が出たりする場面があるかもしれません。
このとき大切なのは、無理に相手を論破しようとしたり、自己の正当性を声高に訴えたりしないことです。
問題が小さい段階であれば、冷静な対話や柔軟な姿勢で解決の糸口が見つかります。
もし感情に任せて言い募れば、取り返しのつかない対立へと発展しかねません。
「争いを避ける勇気」こそが、結果として信頼を得る道となります。
◆ 恋愛
恋愛関係においては、ちょっとした言葉の行き違いや感情の波で、ぎくしゃくしやすい時期です。
しかし、ここで互いに譲らずに言い争ってしまうと、関係にひびが入る可能性があります。
この爻の教えは、「早めの気づきと歩み寄り」です。
言葉にとげがあったとしても、根底にある想いが真摯であれば、相手もその誠意を感じてくれるはず。
少しだけ気をつけて言葉を選ぶことが、思いがけず良い関係への転機となります。
感情の爆発ではなく、理性と優しさで向き合う――それが、このときの愛のかたちです。
◆ 天水訟(初爻)が教えてくれる生き方
争いは時として避けがたいものですが、「争い方を選ぶこと」は常に可能です。
この初爻は、「まだ小さな火種のうちに、それを消し、和解への道を選ぶこと」の重要性を語っています。
たとえ自分が正しいと感じていても、相手に理解されなければ意味がなく、また長く争えば心をすり減らします。
理を通すことと、相手を傷つけないこと――その両立は難しくとも、常に目指すべき理想です。
問題が軽いうちに穏やかに対応すれば、終には吉となり、互いの信頼も深まっていくのです。
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