周易64卦384爻占断
18、水雷屯(すいらいちゅん)上爻
◇ 屯とは何か?
『屯(ちゅん)』は、万象の始まりにおける「困難と混沌」を象徴する卦です。
下卦「震(雷)」は動き始める力、上卦「坎(水)」は困難や試練を表し、新しい事が生まれようとする過程で障害や葛藤が避けられないことを教えています。
始まりには常に不安と不自由がつきものであり、忍耐と内省の中で方向を見定めることが求められるのです。
◆ 上爻の爻辞と解釈
【爻辞】
馬に乗りて班如(はんじょ)、泣血漣如(きゅうけつれんじょ)たり。
【象伝】
泣血漣如たり、何ぞ長かる可けんや。
この上爻は、屯卦の最終段階にあたりますが、依然として厳しい状況を示しています。
「馬に乗る」とは、五爻の主に従い、あるいはその意を受けて行動している状態を指します。
しかし、その馬が制御を離れて激しく駆け出し、止めることもできず、ただ流されるままの状況が生まれています。
「班如」は、ためらいながら揺れ動く様子を表し、
「泣血漣如」は、血の涙を流しながら濡れそぼつほどに嘆き悲しむ姿を象徴しています。
象伝にある「何ぞ長かる可けんや(これが長く続くことができようか)」は、
この苦しみと孤独がもはや限界に達しており、最終的には「身を破る」結末を迎えることを暗示しています。
けれどもこれは、「どん底にある今こそが転機」であることもまた教えてくれています。
極まった苦悩の中にあってなお、自分を見失わず、耐え抜いた先にこそ、新たな道が拓けていくのです。
◆ 含まれる教え
この爻が私たちに告げるのは、「制御不能な流れに乗ることの危うさ」、そして「孤立した極限における決断の重要性」です。
自分の力では止められない勢いに巻き込まれ、声を上げても誰も助けてくれない。
そのような中でもがき続けるほど、状況は悪化し、ついには心も体も限界を超えてしまう――。
ただし、この極限の状況にあるということは、裏を返せば「すでに底を打った」ことも意味します。
ここからどう動くかこそが、本当の選択の時なのです。
◆ 仕事
職場や組織の中で、自分の意志を超えて奔走している状態が考えられます。
周囲の意向やプレッシャーに引きずられる形で、自分を犠牲にしてまで走り続けていませんか?
どれだけ頑張っても、状況が好転しないばかりか、心身が摩耗し、孤独感さえ募ってしまう――。
今はあえて流れから一歩引いて、自分の立ち位置を見直すべき時です。退く勇気こそが、次に繋がる鍵となります。
◆ 恋愛
想いが強すぎて、かえって相手を遠ざけてしまうような、切ない恋の状態です。
追いかけるほど、届かなくなる。
声をかけても返ってこない、その繰り返しの中で、気づかぬうちに深く傷ついていることがあります。
今は無理に前へ進もうとせず、自分自身の心と距離感を取り戻すことが大切です。
冷静な視点を持つことが、関係を破綻から救う一歩となるでしょう。
◆ 水雷屯(上爻)が教えてくれる生き方
この上爻は、人生において最も苦しい「暗がりの中の時期」に私たちがどう振る舞うべきかを教えてくれます。
その痛ましさは、「泣血漣如」に象徴されるように深く、切実です。
しかし同時に、この苦しみの果てには、これまでとは異なる新たな視野が開ける可能性があるということも、暗示されています。
今が最も厳しいなら、それは「転じる前の最後の試練」である。
だからこそ、自らの感情に流されるのではなく、心を見つめ直し、冷静に状況を見極めること。
破れたように見えるその先に、思いがけぬ再生の芽が宿っているかもしれません。
あらゆる道が閉ざされたように見えるときこそ、新しい光が差し込む兆しが潜んでいます。
進むか、止まるか――その選択にこそ、真の生き方の知恵があるのです。
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