周易64卦384爻占断
15、水雷屯(すいらいちゅん)3爻
◇ 屯とは何か?
「屯(ちゅん)」とは、物ごとの始まりにともなう困難や混沌を象徴する卦です。
上卦が水(坎)、下卦が雷(震)で構成され、水は障害、雷は動き出しの力を表します。
まさに「動きたいが進めない」――そんな不安定な状態をあらわしており、焦らずに時機を待ち、正しい道を見極めることの大切さを説いています。
◆ 三爻の爻辞と解釈
爻辞:鹿(ろく)に即きて虞(ぐ)なし。ただ林中に入る。君子は幾(きざし)をみて舎むに如かず。往けば吝。
象伝:鹿に即きて虞なしとは、禽に従うを以てなり。往けば吝とは、窮すればなり。
この三爻では、「鹿に即きて虞なし」とあります。
“鹿”は現実的には獲物ですが、「禄(ろく)」=地位や収穫の象徴とも読まれます。
「虞(ぐ)」は、獣道や森の案内役。すなわち、獲物(=成果)を追って森へ踏み入ろうとするが、案内もなしに無謀に進んでしまう様を指します。
「惟だ林中に入る」とは、ただ思うままに分け入り、深みへ迷い込むような状況。
ここで君子は、「幾(きざし)をみて舎(や)むに如かず」と教えます。
つまり、小さな兆しのうちに危うさを察知し、身を引くことが賢明だ、ということ。
「往けば吝」とは、強引に進めば後悔する、という戒めです。
一見、前に進むことが正しく思えても、備えなき行動は、迷いと困窮を招く――これがこの爻の核心です。
◆ 含まれる教え
この爻が伝えるのは、「準備なき行動は危険」というごく実践的な教訓です。
目先の利益に気を取られて、道理や状況の整いを顧みない行動は、やがて自らを窮地に追い込むことになります。
真の君子(人格者)は、表面の欲に囚われず、小さな不穏の兆しを察知し、立ち止まる勇気を持つのです。
◆ 仕事
何か成果が目の前に見えたとき、今がチャンスとばかりに突き進みたくなるかもしれません。
しかし、信頼できるパートナーや明確な指針がないなら、今は無理に動かない方が賢明です。
周囲の助言や状況の変化を冷静に観察し、小さな「危うさ」を見逃さないこと。
進むより「舎む(やむ)」ことに、むしろ大きな価値があるのです。
◆ 恋愛
想いを寄せる相手にアプローチしたくなる気持ちは高まっているかもしれませんが、相手の心や状況をよく見極めることが必要です。
今は、自分の気持ちばかりが先走ってしまう時期。
相手の準備ができていなければ、好意も重荷になりかねません。
少し引いて観察し、相手の様子に応じた行動を心がけましょう。
◆ 屯卦(三爻)が教えてくれる生き方
目の前の「獲物」――それが成果であれ、人の心であれ――に惹かれて、無計画に深みに入り込むのは、賢明とはいえません。
三爻が教えてくれるのは、危険の兆しを察し、引くべきときに潔く引く強さです。
立ち止まることは、決して後退ではありません。
それは、より良い未来のために道を整える、賢い「保留」です。
今はその英断を学ぶときなのです。
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